NFTの法的性質論の前提として
ブロックチェーン技術の代表的応用例として、昨年あたりからNFTが大きく話題になっています。
ただ、自分なりに理解した限りでは、その大きな売り文句である
「デジタルデータに唯一性を与えることができる」
は、かなり限られた条件下で実現できるだけのようです。
そして、それを前提にすると、それほど法的性質を論ずる価値があるとは言えないのでないかという気もします。そのあたりを書いていきます。
NFTの説明
NFTとは、ノンファンジブルトークンということですが、意味をつかむ助けにはなりません。
現状、ブロックチェーンでのトークンとされる主なものは次の2つです。
・仮想通貨(数えられて、「いくら持っている」ということを考えられる。
・NFT(通貨のように、数えられない。「何をもっている」というようなもの)
データの管理の仕方の単位は、いずれもアドレスです。
仮想通貨であれば
・アドレスA 55,000
・アドレスB 3,000
・アドレスC 0
というように管理されます。
NFTであれば
・アドレスA 1、4、8
・アドレスB 18、23
・アドレスC 何もなし
というように管理されます。
この1,4はIDのようなもので、NFT一つ一つに付与されます。それがどのアドレスに帰属しているかを管理します。そのうえで、典型的な方式としては、このNFTの追加情報を保存するネット上の場所を指定して、そこに
{ “name”: “Thor’s hammer”, →NFTの名前は トールのハンマー
“description”: “Mjölnir, the legendary hammer of the Norse god of thunder.”, NFT説明
“image”: “https://game.example/item-id-8u5h2m.png”, 画像データの保存場所
”strength”: 20強さ }
openzepplelinよりというような情報を保存します。つまり、ブロックチェーン上に保存されるのは、アドレスとIDの紐づけと、データ保存場所のurlだけで、実際の画像データはブロックチェーン上に保存されないのが通常です。
なぜ、画像データはブロックチェーン上に保存されないのか
ブロックチェーンの特徴であり利点は、
・何千何万台ものコンピュータに過去の履歴を含めて全データが保存されている。
・これを誰でも利用できる。
というところにあります。なので、ここに画像なり動画なりを保存すれば、何千何万台のコンピュータに永久保存されることになります。そんなことを許してしまったら、あっというまにコンピュータの保存容量がなくなりブロックチェーンが成り立たなくなります。そこで、容量の大きなデータは保存させない工夫が必要となります。その結果として、ブロックチェーン上に画像データの保存は基本的にできないとうことになります。
ただし、ドット絵のように工夫すれば保存容量をとらなくできるものについて、cryptopunksのようにイーサリアム上に画像データも保存している例外もあります。これをフルオンチェーンのNFTと言います。
画像データはブロックチェーンの永続性の対象外
そのような次第で、NFTのにおいて、ブロックチェーンの永続性や改ざん不能性を画像データの付与できているかというと、普通はできないということです。画像の保存場所はブロックチェーン外ですので、ここが改ざんされてしまうリスクはブロックチェーンを使わない場合とあまり変わりません。つまり、このNFT画像は自分のものだと思っていても、自分のアドレスとNFTのIDが永久保存されたとしても、画像が差し替えられてしまうというのはありうるということです。
同じ画像の異なるNFT作成は容易
ある画像がブロックチェーン上で唯一のものであることを担保する手段もありません。ある画像と全く同じ画像が別途NFT化されているのを防ぐ手段はありません。
NFTの作成にあたっては、それを管理するスマートコントラクトが必要でその中で画像データの保存場所も指定されます。その画像データの保存場所をみれば、同じ画像がないかどうかを調べることは(頑張れば)できると思われます。
しかし、別のスマートコントラクトを作って別の保存場所を指定することも容易ですので、そのように無数に立ち上がるスマートコントラクト間で画像の重複を防ぐのは難しいといえます。NFTの作成(ミントという)の日時をみて早いものを本当とみなすというような暗黙ルールが形成される余地はないとはいえませんが、だいぶ「唯一性の永久担保」というものに比べると、ゆるい気がします。
ゲームアイテムならうまくいく
ただオンラインゲームのアイテムをNFT化した場合はうまくいきます。
というのは、正しいスマートコントラクトアドレスで管理されているアイテム出ない限りゲーム内で利用できないからです。偽物が出回り被害者が出る余地はありますが、本物と偽物は明確に区別できます。
ゲームアイテムをパブリックチェーン上でNFT化することで、ゲーム運営会社を介さずに、ゲームアイテムの譲渡が可能になります。
NFTアートの正当性担保には権威が必要
ゲームアイテムでうまくいく理由は、特定のスマートコントラクトアドレスが正当だといえるからです。
なので、アート画像でも特定のスマートコントラクトアドレスで発行されたものが正当なもので、他は偽物だということが言えれば、同様に正当性が担保されることになります。
しかし、ゲームアイテムであれば利用できる・利用できないという明確な基準がありますが、アートの場合は一筋縄ではいきません。
たとえば、特定のアニメキャラクターのように現実世界での権利保有者が明確で、その権利保有者が特定のアドレスでNFTを発行した、という状況であればそのアドレスの正当性は信頼できます。
しかし、無名のアーティスト等が自らの画像を発行するような状況でそのような権威付けを得ることはなかなかイメージをつかみにくいです。やるとしたら、相当程度、現実世界での確認手続き等をした上でということになりそうです。
NFTアートの実現可能性と分散型との乖離
今年になってWEB3.0なんて言葉が出回ります。基本的にはブロックチェーンという分散型システムの中で中央管理者の権利なしにうまくいく世界観を指しています。
ところが、NFTアートに関しては、上記の通りその世界観ではうまくいかなさそうです。現実世界での権威の裏付けがあってはじめてうまくいくような気がします。
日本企業が自ら立ち上げたプライベートチェーンのようなところでNFTを発行するような話を聞いたとき、当初私はそれではブロックチェーンでのNFTとして無意味なのではないかという気がしていました。
しかし、NFTに関していうと、パブリックチェーン上で立ち上げたところで、結局のところ特定企業なりの信頼を前提にしないとうまくいかないとすると、プライベートチェーンでもよいような気がします(※)。
で(このあたりはよくわかってないのですが)、プライベートチェーンでよいのであれば、そもそもブロックチェーンでなくて従来型のサーバーでも同じことができるのではないか。という気もしてきて、NFTアートとブロックチェーンとの関係が乖離していきます。
※パブリックチェーンを使うメリットは、企業がそのNFT事業から撤退しても、NFTは存続するという点と思われます。大昔に発行されたキャラクターのカードが取引され続ける感じのことができるということです。
NFTの法的性質
NFTの法的性質を論じるとき、あたかもパブリックチェーン上で特定の権威の裏付けなしにデジタルデータの唯一性が担保され、ブロックチェーン上での改ざん不能性も実現されることを前提にしているような気がします。
しかし、上記のように、その前提は「どうかな」という気がします。
いずれ、このようなNFTの性質を前提に法的性質について書こうと思います。