仮想通貨(暗号資産)の相続手続

8月 16th, 2022

仮想通貨の保管方法としては、国内の取引所、海外の取引所、自らのウォレットでの管理の3通りがある。相続手続はそれぞれで大きく異なる。



国内の仮想通貨取引所での相続手続



bitFlyer、コインチェック、GMOコイン、DMM Bitcoin、FTX Japan、BITPOINT、LINE BITMAX等の国内の仮想通貨取引所での相続手続は、国内で銀行口座や証券口座を持っている場合と大きく異なることはなく、海外取引所やウォレット管理にに比べると容易である。



国内の取引所



その取引所に契約者が亡くなった旨の連絡をする。
取引所の指示に従って、戸籍謄本類や相続人が署名押印すべき書類を用意し提出する



という流れになる。



取引している取引所が不明な場合



亡くなった人のメールをみることができる状況であれば、メールに手かがりがある可能性が高い。
また、取引所への入出金は銀行口座から行うことが多いので、銀行口座の入出金履歴に手がかりがあることも多い。
仮想通貨の取引をしていたと思われるが、どの取引所と取引しているか不明な場合は、各取引所に個別に照会して確認する



生前の対策(仮想通貨の相続)



遺言書を作成する場合には、取引所の名前を明示する。遺言書を作成しない場合でも、どこの取引所と取引していたかを遺された人が把握しやすいようにしたおいたほうがよい。
なお、後述の通り、海外の取引所や自らのウォレットに仮想通貨がある場合、相続手続きが困難だったり、不可能になる可能性がある。万が一の可能性がある場合は、できる限り国内の取引所に保管したほうがよい。



海外の仮想通貨取引所での相続手続



バイナンス等の海外の仮想通貨取引所の口座開設の必要性



現状、国内の取引所では購入できる仮想通貨の種類やできることが著しく限られている。たとえば、
・ブロックチェーン上のゲーム等をする場合に必須のネイティブトークンが入手できない。
・ステーキングや流動性供給のような、仮想通貨の基盤を維持に協力することによってインカムゲインを得る手段がない
等という状況である(2022年8月現在)。
そこで、仮想通貨の値上がり益だけを期待するのであれば国内の取引所だけでよいが、より具体的な仮想通貨の有用性に踏み込んでいこうとすると海外の取引所で口座開設をせざるをえない実情がある。
海外の取引所での口座開設というと、よりハイリスクハイリターンな仮想通貨を購入して儲けることを期待してるように思えるが(そういう方も少なからずいるとはいえ)、実際にはむしろ逆と言える。



日本に支店のない海外の銀行に口座を開設することもできますが、そのような事案はレアであり、従来はあまり問題になりにくかった。
しかし、仮想通貨の海外取引所については、インターネットで簡単に口座の開設ができること、上記のように口座を作る必要性があることから、今後、大きく問題になると思われる。



日本法に基づいた手続は期待できない



日本法の枠内での相続手続は預金であれ不動産であれ何であれ、前記国内取引所で記載したように
・戸籍謄本類によって相続人であることを証明する
・相続人全員が手続きに合意していることを示す。
の2つを満たせば、通常はスムーズにすすむ。それでもうまくいかない場合は、日本の裁判所で訴訟手続きをすれば名義変更を強行できる。



しかし、海外の取引所について、このような手続きがスムーズにいく保証はない。日本語を解するスタッフがいる保証もないし、ましてや戸籍や日本法に基づく相続の常識を理解している可能性も低い。
このような状況で、契約者本人が死亡した旨を連絡した場合、口座を凍結された上で、日本では入手不可能な書類を要求される等の展開に発展し、あきらめるか、見通しも不明で高額の費用がかかると見込まれる海外での訴訟手続きをしてみるか、というような究極の選択に陥る可能性がある。



現状で考え得る上策



そこで、次のような手続きをとるのが現在のところ上策と思われる。なお、国内の財産の相続財産については一般的には法律実務上するべきでないとされる方策も含んでいる。なので、国内の財産(国内仮想通貨の取引所を含む)については、このような方法は非推奨である。
また、これどおりにしたからといって手続きスタックしない保証があるわけではない。自分がそのような状況になった場合、考えうる方策というレベルである。



まずは、その海外仮想通貨取引所に対して、誰の件か明らかにせずに、一般論として、日本人が亡くなった場合の相続手続きを尋ねるメール等を送付してみる(英語でのメールになる可能性もあると思われる)。
その結果、日本の戸籍の提出等、日本法に精通していると思われる対応があった場合は、それに乗ればよい。



メールに対する返信がなかったり、要領を得なかったり、日本法上、困難な手続きを要求されていると思われる場合。その海外取引所のログインID,パスワード、連絡メールアドレス、2段階認証の電話番号等のいくつかを把握できているようであれば、相続人全員での合意のもと、適宜手続きをして、相続人の代表が管理する仮想通貨口座に送金する。
なお、この方法は、引き出せなくなるよりマシとの判断でのやや強硬策なので、慎重な判断が必要である。後日、この行為が問題視されたときに、裁判で違法と判断されるリスクがないとは言えない。できるだけ、そのリスクを下げるにはどうしたらよいかは、弁護士への相談をおすすめする。



いずれの方法でもうまくいかない場合に、海外取引所に対して直接、契約者がなくなった旨を伝えて手続きを確認する。



取引している取引所が不明な場合



亡くなった人のメールをみることができる状況であれば、メールに手かがりがある可能性が高い。



海外取引所しか保有していない場合はマレで、通常は国内取引所にも口座がある。というのは、日本円を仮想通貨を換金するには、通常、国内取引所の口座が必要だからである。
そこで国内取引所に対して残高だけでなく、送金先の一覧の開示を求める。そこから海外の取引所が判明する可能性も高い。
また、送金先がアドレスだけの場合は、各種ブロックチェーン・エクスプローラーの類を利用して、調査検討することで海外取引所が判明する可能性もある。
クレジットカードによる入金に対応とするところもあるので、クレジットカードの履歴が手がかりになることもある。



生前の対策(海外の仮想通貨取引所の相続)



生前に、海外の取引所のパスワード等を知らせて置くことは、諸事情から難しい場合が多いと言える。
そこで、たとえばパスワード紛失時にメールアドレスと携帯電話番号が必要なのであれば、万が一のとき、遺された人がそれらを復旧できるかを考えてみる。
たとえば、メールアドレスのパスワードを自分以外知らない場合
携帯電話会社やケーブルテレビ等、本人確認がしっかりしているところで作ったメールアドレスであれば、死亡後の相続手続きによって、遺された人がメールを引き継げる可能性が高い。
逆にgmailのように本人確認がほとんどなくメールアドレスを作成できる場合、遺された人がgoogleに連絡をとっても手続をすすめることは難しいと思われる→メールのパスワードの再設定の場合の手続として自らの携帯電話等を利用できるようにしておく→携帯電話を相続人が相続手続きで利用できれば、メールのパスワード再設定ができるような段取りを考えておく。



ウォレットで仮想通貨を管理している場合の相続手続



ウォレットというのは、自ら仮想通貨を管理する方法である。chrome等のブラウザの拡張機能として利用したり、スマートフォンのアプリとして利用したりするものや、USBに挿して利用するもの等がある。



有名なものとしては、メタマスク(イーサリアム、ポリゴン、バイナンススマートチェーン等に対応、chromeの拡張期のやスマートフォンのアプリとして利用する)phantom(ソラナのウォレット)、ledger(USBに挿して利用する)、Trezor等がある。



ウォレットで管理している場合、誰かに手続きをしてもらうということはできない。なので、パスワードもシードフレーズも不明な場合はどうにもならなくなる。



ウォレットの仕組みとしては、次のようなものが多い。
・既にウォレットが設定済みのブラウザ、PCやスマートフォンで操作する場合は、パスワードがわかれば操作できる。
・新たなブラウザ、PCやスマートフォンに設定する場合は、英単語12個または24個等のシードフレーズというものを利用して設定できる。設定済み端末でパスワードを忘れた場合も同様。



ウォレットがわかっている場合の相続手続き



スマートフォンにメタマスクや phantom がインストールされている。
chromeの拡張機能にメタマスクやphantomがインストールされている。
ledger等のハードウェアウォレットがある



といった場合、ウォレット内に仮想通貨が存在している可能性が高い。
このような場合、パスワードがわかれば仮想通貨を動かすことが出来る可能性が高い。



パスワードがわからない場合は、シードフレーズがどこかに残っていないか探すのも手である。パスワードの場合、使い回しが可能なので、パスワードをどこにもメモしていない可能性もある。その場合、探し出すのは難しい。
しかし、シードフレーズは一方的に設定される。しかも、12個とか24個の英単語なので、どこかにメモしている可能性が高く、探す目的物としても探しやすい。



パスワードもシードフレーズも秘密鍵(※)もわからない場合は、事実上、資金を動かすのは不可能と思われる。



※ウォレットは秘密鍵を管理するツールだが、秘密鍵自体はメモするのもかなり面倒な文字列なので、これを直接把握するのは、コマンドベースで仮想通貨管理している場合等、特殊な場合と思われる。



ウォレットが不明な場合の相続手続き



国内取引所の取引所からの出金履歴や、仮想通貨のエクスプローラー等を調査した結果、いくつかのアドレスについても本人が管理していたのではないかという場合がある。それ以外にも、ウォレットがあるかもしれないし、ないかもしれないという場合がありうる。



そのような場合、次のような調査をすることになる。
・chrome等のブラウザの拡張機能のインストール状況
・スマホのアプリにウォレットがないか
・ledger等のハードウェアウォレットを持っていないか
・PCに仮想通貨を管理するソフトが入っていないか
・シードフレーズと思われる英単語12個・24個等のメモがないか



生前の対策(仮想通貨ウォレットの相続)



ウォレットの相続の生前の対策は、なかなかよい案が思いつかないというのが率直なところである。
シードフレーズをどこかに残しておけば、それを手がかりにウォレットの復旧をできることになるが、逆にシードフレーズを見られたら、ウォレットの仮想通貨を自由に出されてしまうリスクがある。
なので、家族のそういう部分での信用状況と、万が一の際にウォレット財産が引き出し不能になるリスクとの兼ね合いを考えるしかない。
このような状況から、あまり高額な仮想通貨をウォレットで保管することは、少なくとも相続手続きの観点からは推奨しにくい。
高額の仮想通貨をウォレットで保管する必要がある場合は、シードフレーズの一部を家のわかりやすい場所に保管するとともに、残りの一部を誰かに託しておき、万が一の場合に家族に伝えてもらう等の工夫が必要なると思われる。

ブロックチェーンの種類(法的問題の前提)

8月 12th, 2022

ブロックチェーン上の法的問題の検討にあたっては、問題となった仮想通貨なりNFTなりゲームなりDAOなりが、どのブロックチェーンを利用しているのかを把握することが重要です
その他、自らブロックチェーン上のアプリを立ち上げようと考えるとき、仮想通貨やNFTの購入を考えるときも、それぞれのブロックチェーンの特徴は重要な考慮要素となります。



パブリックチェーンかプライベートチェーン・コンソーシアムチェーンか



まずはイーサリアム等のパブリックチェーン上なのか、特定企業の中でのプライベートチェーンや企業グループ等のコンソーシアムチェーンかの区別が重要です。後者の場合、ブロックチェーン特有の法的問題をそれほど考慮せず、従来型の議論の枠組みで考えることができる余地が高いです。



区別の仕方



パブリックチェーンであれば、通常、そのチェーンの利用料としてイーサ(ETH)等のネイティブトークンの利用がガス代として必要となります。そのためにメタマスク等のウォレットの準備が必要となります。



逆にこのような面倒な手続きが必要がなしに、NFT等が購入できるとしたらプライベートチェーン等の可能性が高いといえます。たとえば、ID(メールアドレス等)とパスワードで本人確認した上でクレジットカード等で日本円で購入できる場合です。



なお、パブリックチェーン上の仮想通貨等だとしても、いわゆる取引所(※)で暗号資産を購入した場合はウォレット等は必要なくIDとパスワードでの管理になります。取引所で仮想通貨を保管している限りは、多くの場合、ブロックチェーン特有の法的問題はあまり発生せず、従来型の議論の枠組みで対応できることが多いと思われます。



※コインチェック、ビットフライヤー、ビットバンク、GMOコイン等です。



区別の理由



パブリックチェーンかプライベートチェーンかの区別が重要となる次の理由です。
ブロックチェーンを運営するには相当程度のコストがかかります。
仮想通貨やNFTを移転する際には、ブロックチェーン上に新たな記載をすることになり、そのためのコンピュータの稼働コストが発生します。そのコストを利用者がガス代として支払うのであれば運営者は必ずしも必要ありません。しかし、利用者がコストを支払わないのであれば、運営者がそのコストを支払い続ける必要があるため、運営者の存在が必須になります。運営者が想定されるのであれば、ブロックチェーン特有の議論に入らずに、運営者に対する債権としてとらえる余地が大きくなります。
たとえば、LINE Blockchainでは、NFTを購入した人が、NFT移転する際のガス代が不要です。その反面、運営者にはクラウドサービスのような料金表が提供されています。このサービスにもとづいてNFTサービスを提供している場合、提供者は月額の利用料を支払い続ける必要があります。
これがイーサリアム上のNFTの場合、はじめにNFTを作成(ミント)するときにガス代はかかります。その後はNFTを移転したい人がガス代を負担していくことになります。なので、はじめにNFTを作成した人等の運営者による継続的な費用が必須ではなく、NFTを誰かが提供していると考えることが難しくなります。債権というよりは、ブロックチェーン上の電子的物体に近くなります。



パブリックブロックチェーンの区別



台数による信頼性



ブロックチェーンの信頼性は、ブロックチェーンを構成するコンピュータ(ノード)の台数による部分が大きいです。
多数のノードが存在するビットコインやイーサリアムは信頼性が高いといえます。



仮にスピードが早くて、ガス代が安いブロックチェーンを作り上げたとしても、それを構成するコンピュータが大量に集まってくれていないと信頼性が低くなります。
というのは、ブロックチェーンの信頼性は、コンピュータ等の51%を奪われると損なわれる可能性が高いからです。



ただし、この問題は誰でもノードに加わることができるという特性にもとづいています。誰でも加わることができるので、悪意あるノードが加わるのを防ぐことができないからです。



そこで、BNBチェーン(バイナンススマートチェーン)のように、誰でもノードに加わることとはできないという方式をとっている場合もあります。この場合、ブロックチェーンの信頼性は、このブロックチェーンを提供しているバイナンスの信頼性に依存することになります。



この意味での信頼性の高さは、そのブロックチェーンのネイティブトークンの時価総額である程度把握することができます。時価総額が小さいブロックチェーンは、他の性能が高くても信頼性の点で弱いといえます。



ガス代の安さやスピード



信頼性の点ではイーサリアムに軍配があがります。イーサリアムはガス代が高くちょっとした操作にも相応の金額がかかります。2021年の終わり頃に色々ためした限りだと、送金で何百円、ちょっとした操作で何千円かかる感じでした。これがソラナのブロックチェーンだと送金で1円も手数料がかからないようです。
また、スピード面でもイーサリアムより早いとするものが多くあります。



ネイティブトークンの入手の容易性



イーサリアムを利用するにはイーサ(ETH)、ソラナを利用するにはソラナ(SOL)、バイナンススマートチェーンを利用するにはBNB、ポリゴンを利用するにはMATIC等のネイティブトークンといわれる仮想通貨が必要です。
イーサであれば、日本の取引所でも容易に入手できます。しかし、2022年8月時点で、ソラナやMATICは、ようやく買えるところが一つ2つでてきた程度。BNBは買えるところはなさそうです。こういったものを買うには、日本の取引所から海外の取引所に一旦仮想通貨を送金し、海外の取引所の購入するしかないといえます。
入手困難なネイティブトークンが必要なブロックチェーン上で動くサービスは、日本の顧客には提供しにくくなります。
パブリックブロックチェーンの現状で言うと、入手しやすいが利用料が高すぎて提供が難しいイーサリアムか、料金は安いがネイティブトークンの入手が困難なソラナやBNBといった状況になってしまっています。
日本でのNFTのサービスがパブリックブロックチェーンではなく、プライベートチェーンになりがちな理由の一端はここにあるのかもしれません。



マニュアル等の充実



みずからブロックチェーンを利用して何かサービスを提供しようとする場合、マニュアルやサンプルコードの充実は重要です。その点では、イーサリアムが圧倒しています。
バイナンススマートチェーン等では、イーサリアム互換(EVM互換)ということで、イーサリアムで動くコードを利用できることになっています。イーサリアム互換でないと、開発の難易度は高くなるといえます。



あらたなブロックチェーンが出てきたといったときは、そのブロックチェーンがEVM互換なのかはどうかは、その後利用者を増やせるかどうかについて重要な影響があります。



NFTの法的性質論の前提として

8月 6th, 2022

ブロックチェーン技術の代表的応用例として、昨年あたりからNFTが大きく話題になっています。
ただ、自分なりに理解した限りでは、その大きな売り文句である
「デジタルデータに唯一性を与えることができる」
は、かなり限られた条件下で実現できるだけのようです。
そして、それを前提にすると、それほど法的性質を論ずる価値があるとは言えないのでないかという気もします。そのあたりを書いていきます。



NFTの説明



NFTとは、ノンファンジブルトークンということですが、意味をつかむ助けにはなりません。
現状、ブロックチェーンでのトークンとされる主なものは次の2つです。
・仮想通貨(数えられて、「いくら持っている」ということを考えられる。
・NFT(通貨のように、数えられない。「何をもっている」というようなもの)
データの管理の仕方の単位は、いずれもアドレスです。
仮想通貨であれば
・アドレスA 55,000
・アドレスB 3,000
・アドレスC 0
というように管理されます。
NFTであれば
・アドレスA 1、4、8
・アドレスB 18、23
・アドレスC 何もなし
というように管理されます。
この1,4はIDのようなもので、NFT一つ一つに付与されます。それがどのアドレスに帰属しているかを管理します。そのうえで、典型的な方式としては、このNFTの追加情報を保存するネット上の場所を指定して、そこに
{ “name”: “Thor’s hammer”, →NFTの名前は トールのハンマー
“description”: “Mjölnir, the legendary hammer of the Norse god of thunder.”, NFT説明
“image”: “https://game.example/item-id-8u5h2m.png”, 画像データの保存場所
 ”strength”: 20強さ }
openzepplelinよりというような情報を保存します。つまり、ブロックチェーン上に保存されるのは、アドレスとIDの紐づけと、データ保存場所のurlだけで、実際の画像データはブロックチェーン上に保存されないのが通常です。



なぜ、画像データはブロックチェーン上に保存されないのか



ブロックチェーンの特徴であり利点は、
・何千何万台ものコンピュータに過去の履歴を含めて全データが保存されている。
・これを誰でも利用できる。
というところにあります。なので、ここに画像なり動画なりを保存すれば、何千何万台のコンピュータに永久保存されることになります。そんなことを許してしまったら、あっというまにコンピュータの保存容量がなくなりブロックチェーンが成り立たなくなります。そこで、容量の大きなデータは保存させない工夫が必要となります。その結果として、ブロックチェーン上に画像データの保存は基本的にできないとうことになります。
ただし、ドット絵のように工夫すれば保存容量をとらなくできるものについて、cryptopunksのようにイーサリアム上に画像データも保存している例外もあります。これをフルオンチェーンのNFTと言います。



画像データはブロックチェーンの永続性の対象外



そのような次第で、NFTのにおいて、ブロックチェーンの永続性や改ざん不能性を画像データの付与できているかというと、普通はできないということです。画像の保存場所はブロックチェーン外ですので、ここが改ざんされてしまうリスクはブロックチェーンを使わない場合とあまり変わりません。つまり、このNFT画像は自分のものだと思っていても、自分のアドレスとNFTのIDが永久保存されたとしても、画像が差し替えられてしまうというのはありうるということです。



同じ画像の異なるNFT作成は容易



ある画像がブロックチェーン上で唯一のものであることを担保する手段もありません。ある画像と全く同じ画像が別途NFT化されているのを防ぐ手段はありません。
NFTの作成にあたっては、それを管理するスマートコントラクトが必要でその中で画像データの保存場所も指定されます。その画像データの保存場所をみれば、同じ画像がないかどうかを調べることは(頑張れば)できると思われます。
しかし、別のスマートコントラクトを作って別の保存場所を指定することも容易ですので、そのように無数に立ち上がるスマートコントラクト間で画像の重複を防ぐのは難しいといえます。NFTの作成(ミントという)の日時をみて早いものを本当とみなすというような暗黙ルールが形成される余地はないとはいえませんが、だいぶ「唯一性の永久担保」というものに比べると、ゆるい気がします。



ゲームアイテムならうまくいく



ただオンラインゲームのアイテムをNFT化した場合はうまくいきます。
というのは、正しいスマートコントラクトアドレスで管理されているアイテム出ない限りゲーム内で利用できないからです。偽物が出回り被害者が出る余地はありますが、本物と偽物は明確に区別できます。
ゲームアイテムをパブリックチェーン上でNFT化することで、ゲーム運営会社を介さずに、ゲームアイテムの譲渡が可能になります。



NFTアートの正当性担保には権威が必要



ゲームアイテムでうまくいく理由は、特定のスマートコントラクトアドレスが正当だといえるからです。
なので、アート画像でも特定のスマートコントラクトアドレスで発行されたものが正当なもので、他は偽物だということが言えれば、同様に正当性が担保されることになります。
しかし、ゲームアイテムであれば利用できる・利用できないという明確な基準がありますが、アートの場合は一筋縄ではいきません。
たとえば、特定のアニメキャラクターのように現実世界での権利保有者が明確で、その権利保有者が特定のアドレスでNFTを発行した、という状況であればそのアドレスの正当性は信頼できます。
しかし、無名のアーティスト等が自らの画像を発行するような状況でそのような権威付けを得ることはなかなかイメージをつかみにくいです。やるとしたら、相当程度、現実世界での確認手続き等をした上でということになりそうです。



NFTアートの実現可能性と分散型との乖離



今年になってWEB3.0なんて言葉が出回ります。基本的にはブロックチェーンという分散型システムの中で中央管理者の権利なしにうまくいく世界観を指しています。
ところが、NFTアートに関しては、上記の通りその世界観ではうまくいかなさそうです。現実世界での権威の裏付けがあってはじめてうまくいくような気がします。
日本企業が自ら立ち上げたプライベートチェーンのようなところでNFTを発行するような話を聞いたとき、当初私はそれではブロックチェーンでのNFTとして無意味なのではないかという気がしていました。
しかし、NFTに関していうと、パブリックチェーン上で立ち上げたところで、結局のところ特定企業なりの信頼を前提にしないとうまくいかないとすると、プライベートチェーンでもよいような気がします(※)。
で(このあたりはよくわかってないのですが)、プライベートチェーンでよいのであれば、そもそもブロックチェーンでなくて従来型のサーバーでも同じことができるのではないか。という気もしてきて、NFTアートとブロックチェーンとの関係が乖離していきます。



※パブリックチェーンを使うメリットは、企業がそのNFT事業から撤退しても、NFTは存続するという点と思われます。大昔に発行されたキャラクターのカードが取引され続ける感じのことができるということです。



NFTの法的性質



NFTの法的性質を論じるとき、あたかもパブリックチェーン上で特定の権威の裏付けなしにデジタルデータの唯一性が担保され、ブロックチェーン上での改ざん不能性も実現されることを前提にしているような気がします。
しかし、上記のように、その前提は「どうかな」という気がします。



いずれ、このようなNFTの性質を前提に法的性質について書こうと思います。

スマートコントラクトの私法的性質

8月 3rd, 2022

ブロックチェーンが大きく飛躍するきっかけとなると言われるのがスマートコントラクトです。
ビットコインでは通貨の送金がメインでした。イーサリアムではスマートコントラクトといってコンピュータ・プログラムを利用できるため様々なことができます。様々なことといってもピンとこないので,まずモデル的な説明をします(日本法では違法!と言われそうですが)。
・プログラムなので乱数を発生させて,サイコロを振らせることができます(※)。
・同時に,ブロックチェーンなので仮想通貨のやりとりができます。
→スマートコントラクトに対してお金を預け入れた結果,サイコロの目にあわせて,ハズレだったり,お金が何倍かになって戻ってきたりする,スロットマシーン的な仕組みを実現できる。



より現実的に,現在スマートコントラクトによって実現しているのは次のようなものです。
・別の仮想通貨の作成(ステーブルコイン,ガバナンストークン等)
・NFT(ノンファンジブルトークン→通貨のように量的でないトークン)の作成
・仮想通貨同士の交換→DEX(分散型取引所 uniswap pancakeswap)
・仮想通貨の貸し借り(Defiの一種。compoundが有名)
・DAO(分散型自立組織)



スマートコントラクトの存在は,ビットコインの法的性質以上に,複雑怪奇で面白い法的議論を導きます。
ビットコインの法的性質は,法的な権利の客体の話でしたが,スマートコントラクトは法的な権利の主体の話になってきます。



※実際には,ブロックチェーン上の乱数の発生には様々な問題があります。



スマートコントラクトの構造



イーサリアム上,スマートコントラクトとアドレス,人間(自然人と法人等)との関係は次のようになります。
・仮想通貨の保持,NFTの保持,送金の主体等のイーサリアム利用の単位はアドレスである。
・アドレスは人間が持っている場合と,スマートコントラクトが持っている場合がある。
アドレスを持っているのが人間だけであれば,ビットコイン同様,法的主体についてはあまり問題になることはありません。しかし,どの人間にも帰属していないアドレス,つまりスマートコントラクトのアドレスに仮想通貨が帰属したり,スマートコントラクトのアドレスにお金を送金したり,そこからお金を借りたりできるということにより,法的にどう考えるべきか複雑な問題が発生します。



もう少しスマートコントラクトを説明します。
通常の送金等の指示はブロックチェーン上に「AからBに○送金する」という内容で登録されます。ブロックチェーンを構成する何万・何千のコンピュータに同じ内容が永久保存されます。その集計結果があるアドレスの残高になります。
スマートコントラクトの場合,特定のプログラムがブロックチェーン上に登録(デプロイという)されます。ブロックチェーンを構成する何万・何千のコンピュータに同じ内容のプログラムが永久保存されます。登録(デプロイ)されたときにアドレスが発行されます。そのアドレスを利用して誰でもそのプログラムを呼び出すことができます。



永久保存される→つまり変更ができないということです。はじめに変更できるパラメータを作っておくことはできます。でも,それ以外はできません。仮にバグがあっても修正できないとされています。



プログラムを登録する際には人間がもっているアドレスから行うのが通常なので,その登録をした人間を想定することはできます。しかし,
・ブロックチェーンのプログラムの大半はコピペによるものでありプログラムに個性がないことが多い
・登録した本人も修正はできず,特に権限を設定しなければ,登録した本人はそのスマートコントラクトに対して特別関係があるとは限らない。
ということからすると,常に登録した人がプログラムの管理者とは言い切れないことになりそうです。ビットコインの運営者がサトシナカモトであるとは言えないのと同様な感じと思われます。



スマートコントラクトの管理者とスマートコントラクトとの契約



現状、多くのスマートコントラクトについては、ある程度、発行者・管理者を想定できることが多いです。
ステーブルコインの発行にしても企業体が発行主体であったり、分散化したDAOが運営しているといっても、(法人格の有無はともあれ)人間の集まりを想定することができます。



しかし、例えば、「お金を預けることができ、預けたアドレスが引き出し司令を出すと引き出すことができる」というシンプルで無個性なプログラムを、何らかのボットが自動的にどからかコピーして、ブロックチェーン上に登録(デプロイ)したとします。で、意外にこのスマートコントラクトが重宝されて使う人が出てきたとします。そしてプログラムの変更はできないとします。
このような場合に、スマートコントラクトの管理者を想定することは、かなり無理やりな感じがでてきます。さらに、常にスマートコントラクトの管理者の特定を必要とする法的構成を前提とすると、管理者を特定できない場合は、それ以上は前に進めないということになりかねません。むしろ、スマートコントラクト自体に何らかの法的主体性を認める(「特定のスマートコントラクトに対して仮想通貨を寄託した」という事実主張を法的に意味があるものと扱う)ほうがより有効なのではないかと思われます。
「管理者がいない場合は管理者が運営するものとし、いない場合はスマートコントラクトに主体性を認める」ということも考えられますが、管理者がいないかどうかの把握が困難なことを考えれば、管理者がいる場合も「スマートコントラクトと契約した。そのスマートコントラクトの管理者は〇〇である」という構成を認めたほうがよいのかも、という気もします。



onlyowner



小ネタ的ですが、イーサリアムのスマートコントラクトでよく使われるSolidityという言語の勉強をすると、OnlyOwnerという修飾子の話が比較的はじめのほうに出てきます。これは、指定したアドレスを当該スマートコントラクトのownerに指定して、そのownerアドレスからでないと実行できない関数を指定したりできます。このonlyownerがあるとスマートコントラクトを現在管理していると思われる人間アドレスの存在を追うことができるといえます。
なお、ブロックチェーンのデータは公開されているので、スマートコントラクトのプログラムも公開されています。
とはいえ、一部のプログラムはsolidityのプログラムを公表していますが、それ以外はプログラムの内容を確認するのはそれなりに面倒そうです。



全体像への再考



このように、スマートコントラクトは、法的な主体について再検討を要請する可能性が強いといえます。
ビットコインの法的性質についての議論もこの観点から再検討する必要があるかもしれません。というのも権利客体だけの問題であれば、何らかの法的財産権を認めても良いのではないか、という議論に親近感があります。しかし権利主体まで認めるという話になってくると、全体として法的な権利主体・権利客体とは認めない、という方向にしておいたほうがよいのではないか、ということもありそうだからです。
ブロックチェーンの優れた特徴は国境をまたいだやりとりが容易だということです。インド人が作ったプログラムをブラジル人がブロックチェーン上に登録(デプロイ)し、フランス人と日本人がそこに預けられている仮想通貨(この仮想通貨の発行はフィリピン人)の帰属を争っている。なんて場合に、日本法での位置づけを議論することに意味があるのかは、かなり怪しいといえます。
さらに、ビットコイン上での法的性質の議論がひそかに前提にしているように、どのように日本の法律家が議論したところで、ビットコインのネットワークに対して日本の司法の強制力は無力だということです。判決で、特定の人の権利だと確定したところで、ブロックチェーン上にその内容を強制登録することはできず、ブロックチェーン外で精算するのが精一杯です。これは、日本に限らず、どこの国の司法でも同様です。
では、どうするのだ、というのがブロックチェーンの私法的性質論の本質なのだろうと思います。



仮想通貨の私法的性質

8月 1st, 2022

(法的用語としては、仮想通貨でなく暗号資産だという話もありますが、NFTを含めた暗号資産全体と通貨的なものとは区別したほうがよいことも多いので、通貨的なものを仮想通貨と呼ぶことにします。暗号通貨でも良いのですが)



ビットコインの私法的性質



ビットコインの法的性質は、ある程度調べると各所で論じられています。
概略としては
(前提)
・物でないので所有権を観念できない
・発行者いないので債権でもない
・知的財産権というのも無理がある
なので
・現状の法概念では把握できない。
・財産価値もあるし、排他性もあるので法的に無視できるものではない



(諸説)
ではどう考えるか
・事実状態に過ぎず権利生を否定する説(侵害は不法行為等の対象にはなる)
・権利性は否定するが物権法理を準用する説
・物権又は準物権を認める説
・財産権を認める説
・プログラムに対する合意を根拠



なんてあたりです。詳しくは
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/affiliate/kinpo/kinpo2016_1_2.pdfとか
『金融・商事判例 2021年3月増刊 1611号 暗号資産の法的性質と実務』



ビットコイン以外にも適用できるか?



しかし、上記の議論をブロックチェーンを利用した仮想通貨全般に適用できるか、というと必ずしもそうともいえないと思われます。
どこかの日本の企業(IT企業なり銀行なり)が、ブロックチェーン技術(ただしプライベートチェーン)を使って、あらたな仮想通貨を発行した場合、法的性質としては電子マネーとあまり変わらないことになると思われます。この場合、電子マネーを管理するコンピュータ基盤を従来型のOS+サーバにするか(メインコンピュータとバックアップ)、ブロックチェーンプログラム(何台かのコンピュータを並列に置く)にするかという程度の違いに過ぎず、法的に差異を設ける必要があるとは思えません。
これは一つの極端な場合でありますが、ビットコインも仮想通貨の中ではもう一つの極端な場合であって、その他の仮想通貨はこの中間に位置しているといえます。以下では、法的性質を考えるにあたり重要と思われるファクターを見ていきます。



チェーンの公開性の程度



ビットコインが管理者不在で公開されているという場合、次のようにいくつかの側面があります。



  1. データが公開されていること
  2. 誰でも、許可不要で必要なアドレスを取得し、送金等ができること
  3. 誰でも、ブロックチェーンを構成するコンピュータ(ノード)になれること


まず、どこかの企業が自前のブロックチェーン(プライベートチェーン)を利用する場合、この3つのいずれも満たしていないことが多いといえます。企業の集まりが、コンソーシアムチェーンを作る場合も、その企業内ではこの3つを満たしますが、その外側に対してはいずれも満たしていないということになります。なので、ビットコインでの議論の適用の余地は小さいと思われます。



一般的なパブリックチェーンの場合、1と2を満たしていることは多いといえます。しかし、3については、異なる場合があるようです。
ビットコインの場合、誰でもコンピュータにビットコインのソフトをインストールしてインターネットに繋げば、ビットコインのネットワークを構成するノードの一部になり、マイニング競争に加わるとともに、ビットコインの堅牢性保持に加わることになります。
しかし、現状、多くのチェーンはビットコインのプルーフ・オブ・ワークから、より環境にやさしいと言われるプルーフ・オブ・ステークに移行しています。その中で、ソフトをインストールして、インターネットに繋いで、適宜必要な仮想通貨の額をステークすれば、バリデータになれるのであれば2を満たしているといえます。



しかし、おそらく(完全に理解しきれていないので誤りがあるかもしれません)バイナンススマートチェーンでは、このような形ではバリデータになることはできず、バリデータになる人は決まっているようです。そうすると、そのようなチェーンは、誰のものでもない・管理者がいないというような状況ではなく、バイナンスの管理下にあるとみる余地がでてきます。



なお、ここでの話は、主に特定のブロックチェーンと密接に結びついたネイティブトークン(そのブロックチェーン利用に必要な仮想通貨)に関するものです。特定のブロックチェーンに管理者が存在すれば、そのブロックチェーンのネイティブトークンはその管理者に対する債権と考える余地があるということになります。なお、ネイティブトークンを利用料(ガス代)として払うということは、2があって問題になることです。誰でも使うことができるからには、利用料を徴収する仕組みが必要です。プライベートチェーンであれば、その企業が全体的なサービス提供の収支の中で考えればよいので、ガス代の存在は必須ではありません。



準管理主体の存在



上記のバイナンススマートチェーンでのバイナンスの存在ほどではないにしろ、イーサリアムにはイーサリアム財団、ソラナにはソラナ財団、ポルカドットにはWeb3 Foundationといったような取り仕切りをしている団体が存在しています。これらの存在も、管理者不在かどうかを議論する際にグレーな存在といえます。



ガバナンストークン、ユーティリティートークン、地域通貨



ビットコインにおいては、ビットコインのブロックチェーン上で動くのはビットコインという通貨だけ(厳密には様々な工夫はなされていたようだが)でした。つまり、ブロックチェーンと仮想通貨が一体化していたといます。ビットコンの私法的性質に関する議論は、このような前提でなされています。
しかし、イーサリアム、ソラナ、バイナンススマートチェーン等においては、そのブロックチェーン上で利用できる別の仮想通貨を新たに作ることができます。この場合は、ブロックチェーンに管理者・提供者が存在しなくても、仮想通貨には管理者や提供者が存在するということがありえます。



ステーブルコイン



いわゆるドル等に連動したステーブルコインは、イーサリアム上のERC20トーク等として発行され、発行体組織が存在することが多いです。USDTであればTether社、USDCはCenterというコンソーシアムのようです。
このような場合、ステーブルコインを発行体に対する債権と考えることができるのか等の再検討の余地はあるといえます。もっとも、現状のステーブルコインについては、何らかの債権だとしても準拠法が日本法ということはなさそうです。
今後、日本円連動のステーブルコインが日本企業(またコンソーシアム)から発行された場合、そのチェーンがパブリックチェーンだとしても、ビットコインでの法定性質論がそのまま当てはまることはなさそうです。



ガバナンストークン



ユニスワップ(DEX。分散型取引所)におけるUNI等のガバナンストークンは、株式類似の性質もあり、保有者は意思決定の権限、利益配当を受ける権限があることも多いです。このような場合も、ビットコインでの議論がそのまま当てはまるとはいえないだろうと思います。



その他ユーティリティトークン等



ステーブルコインやガバナンストークン以外の地域通貨だったり、ゲーム内通貨だったりも、同様に発行体が存在したり、何らかの権利があったりということが想定され、個別の検討が必要そうです。



議論の実益と検討の枠組み



以上、つらつらと書きました。このようなことを検討する実益は、



  • 仮想通貨が盗まれたとき
  • 差押をするとき
  • 倒産企業が保有していたとき
  • 秘密鍵を紛失したとき
  • 誤送金したとき
  • 相続が発生したとき


等に何らかの、国内司法での枠組みで救済措置を取りうるかということを検討する際に有用となります。



そして、起こった場面(差押の場面なのか、相続の場面なのか)、仮想通貨の性質に応じて、何かとりうる手段はあるのかという検討をすることになろうかと思います。

暗号資産・仮想通貨の種類

7月 28th, 2022

概要



暗号資産・仮想通貨は、たくさんの種類があります。
分類する枠組みを自分の中で持っていたほうが、理解しやすくなります。
基本的には、次の枠組みがよいと現時点では思っています。



  1. ネイティブトークン
  2. 1以外の仮想通貨(ERC20トークンが代表)
  3. NFT(通貨でない暗号資産)


意味不明の言葉が出てきて読む気が失せそうな分類ですが、説明していきます。



ネイティブトークン



ビットコインのブロックチェーン、イーサリアムのブロックチェーン、ソラナのブロックチェーンはそれぞれ別の生態系です。
で、そのブロックチェーンを利用する(送金する等)ためには、一定の手数料(イーサリアムだとガス代と言われる)を払う必要があります。

ビットコインのブロックチェーンではビットコイン(BTC)で支払いをし、イーサリアムのブロックチェーンではイーサ(ETH)で支払いをし、ソラナのブロックチェーンではソラナ(SOL)で支払いをします。
このブロックチェーンを使うのに必要な手数料となる通貨がネイティブトークンです。



イーサリアム上では、新しい通貨を作り出すことができます。
たとえば、ドル連動のUSDTという仮想通貨があります。
この通貨はイーサリアム上にありますので、送金手数料はUSDTではなくイーサ(ETH)で支払うことになります。



ですので、ネイティブトークンが手に入らないと、そのブロックチェーンを利用することができません。



なお、様々なブロックチェーンがある理由は次のようなイメージです。

ビットコイン登場
→通貨だけでなく色々したい
→イーサリアム登場
→イーサリアムはガス代が高いし遅い
→BNBやソラナ等のそういった問題を解決するチェーンが誕生
→現状はさらに、ゲームに最適化等のチェーンが多数登場しつつある。



日本の取引所の問題点



日本の取引所の不便さのひとつがこれです。
現状、イーサリアムのガス代が高すぎる問題があって、ソラナとかBNBチェーンとかポリゴンといったブロックチェーンで動くものが多くなっています。

これを利用するには、そのネイティブトークンであるソラナ(SOL)やBNBやMATIC(ポリゴンネットワークのネイティブトークン)が必要になるのですが、あまり日本の取引所では扱っていません。
そうすると、こうした通貨を手に入れて、ブロックチェーン上のアプリケーションを利用するには海外の取引所を利用せざるを得なくなります。



そのため、いくら海外の取引所は認可されていないから利用すべきでないと行ったところで、まともにブロックチェーンを利用しようと思ったら海外の取引所を利用するしかないのです。

投機的な危険から国民を守るような趣旨はあるとは思うのですが、現状で日本取引所だけの利用で期待できるのは、通貨の価格の上昇による利益獲得だけです。
つまり投機目的以外でブロックチェーンを利用したかったら海外の取引所を利用するしかないという本末転倒の状況になっています。

最近は、多少改善してきている気もしますが、ある程度の規模のブロックチェーンのネイティブトークンは原則取り扱ってほしいものです。



ERC20トークン等のネイティブトークン以外の仮想通貨



イーサリアムではスマートコントラクトという仕組みにより様々なことができます。
その代表が、別の仮想通貨を作成して動かすことができるということです。

ただし、その送金等ではイーサ(ETH)が必要となります。
イーサリアム上での仮想通貨作成の一定の約束事がERC20でそれに従った仮想通貨をERC20トークンといいます。
イーサリアム以外のソラナやBNB等、最近のブロックチェーンはスマートコントラクトに対応しているので、同様に別の仮想通貨を作ることできます。
この仕組を使えば、地域通貨とか会社内で利用する通貨等を誰でも自由に作ることができます。

現状において、この枠組で動いている代表的な仮想通貨は次用のようなものです。



  • ステーブルコイン
    仮想通貨は価格変動が激しく決済目的には不便なところがある。そこでドル等に連動するように設計したもの
  • ガバナンストークン
    株のようなもの。その通貨を持っている人に意思決定の権限を与えたり、利益配当したりする。
  • ユーティリティートークン
    ゲーム内通貨のように、様々な利用目的で利用される


現状の仮想通貨を上記に従って分類してみる



ここで、時価総額の上位について、上記の枠組みで分類してみます。



  1. ビットコイン   ネイティブトークン
  2. イーサリアム   ネイティブトークン
  3. Teher(USDT)   イーサリアム上のステーブルコイン
  4. USD Coin(USDC) イーサリアム上のステーブルコイン
  5. BNB        ネイティブトークン
  6. Binance USD    BNB上のステーブルコイン
  7. XRP       送金特化の特殊な仮想通貨
  8. Cardano(ADA)  ネイティブトークン
  9. Solana(SOL)   ネイティブトークン
  10. Dogecoin(DOGE) ネイティブトークン


ガバナンストークンとしては、記載日現在17位のUniswap(UNI)等があります。





NFT(通貨でない暗号資産)



NFTはノンファンジブルトークンと言われて、更に意味がわかりにくいです。
基本的に、一つ一つに個性があってIDをつけた暗号資産です。
現状、日本ではデジタルアートをNFTにするというようなことが大きな話題になっています。

とりあえず利用が拡大しそうなのは、ネット上で行うゲームアイテムです。
これをNFT化することで、ゲーム提供会社を介さずにユーザー同士でアイテムの譲渡をしたり、他のゲームでそのアイテムを利用する、ということが可能になります。



将来的には、不動産登記をNFTで管理というイメージが語られることもあります。

暗号資産と法律

7月 27th, 2022

このところ、Web3.0とかNFTとかメタバースとかが話題になり始めています。
実は私も昨秋あたりからブロックチェーンの研究を始めていて、おおかたイメージがつかめつつあります。
もっとも、技術の進歩が早いことや、ブロックチェーンも色々あって、あるブロックチェーンには当てはまっても、別のブロックチェーンにはあてはまらない特徴があること等の様々な要因があり、正確に全体像をつかむことは難しいともいえます。



とりあえず、ここでは法律とのからみ、法理論的問題や法律実務上の問題について書いていこうと思います。



分散型であることで法理論と法実務に大きな影響



ブロックチェーンの特徴のひとつは分散型であることです。
ただし一概にいえない部分もあり、その部分も説明します。

法律論において、分散型であることの重要性は、ブロックチェーンの提供者が想定できなくなるということです。
分散性のせいで、ブロックチェーン上の権利ばかりか法的主体も従来の法的枠組みでとらえるのが困難になり、執行や相続、誤送金、秘密鍵喪失等の場合における法律実務においても、従来には存在しない問題が発生します。



ブロックチェーンの提供者が想定できないこと



この部分は直感的には理解が困難です。ですので、ブロックチェーンを理解できていない法律家は、無理やりブロックチェーンの提供者をでっちあげかねないので注意が必要です。

ビットコインでいえば、



  • 世界中にちらばった何万台ものコンピュータに過去の全データが保存されブロックチェーンを提供している
  • この何万台のコンピュータに主従関係はない
  • 誰でもこのコンピュータに加わることができ、いつでも抜けることが出来る。


という仕組みなのでビットコインの提供者を想定することができないということになります。

無理をすれば、



  • 特定時点で参加しているコンピュータの所有者が提供者だ とか
  • ソフトウェアを作ったサトシナカモトが提供者だ


とか言ってみることはできるでしょうが、実態を反映しているとは言い難いのだろうと思います。



ブロックチェーンの提供者を想定できる場合とグラデーション領域



しかしブロックチェーン技術を使っていれば常に分散的で提供者を想定できないとは限りません。

銀行などの金融機関が「ブロックチェーン技術を使って電子通貨を云々」とかIT企業が「ブロックチェーン技術を利用してNFTを云々」と言っている場合は、提供者を想定できることが多いです。
プライベートチェーンと言われるブロックチェーンでは、ブロックチェーンを構成するコンピュータは世界中に散らばっていて誰でも参加可能なものではなく、特定企業が管理するコンピュータです。
なので、当然、その企業がサービスの提供者ということになります。



また、いくつかの銀行等が集まってグループを作って「ブロックチェーン技術を使って新たな電子通貨云々。あらたに参加企業も募集中」とかいう場合は、コンソーシアムチェーンと言われるものです。
構成するコンピュータ間に主従関係はありませんが、誰でもブロックチェーンを構成するコンピュータに参加できるわけではありません。
この場合も、このサービスを提供するグループを想定することできます。



世界中で利用されている仮想通貨(暗号資産)の中でも、リップル(XRP)のように提供企業を想定できるものもあります(ただし、リップルはブロックチェーンとは異なる分散型台帳システムを利用していると言われる)。



また、バイナンススマートチェーンのように標準的なブロックチェーン技術を使っていても、ブロックチェーン自体の提供者(バイナンスという会社)がある程度イメージできる場合もあります。
もっとも、これも程度問題で、イーサリアムにおけるイーサリアム財団、ソラナにおけるソラナ財団、ポルカドットにおけるWeb3 Foundation等、密接に関連する団体が存在しているが、構成するコンピュータに加わるのが自由と思われるブロックチェーン等もあります。



さらに、イーサリアムにしろ、バイナンスチェーンにしろ、ソラナにしろ、そのブロックチェーン上で、誰もが新たな暗号資産を作り出して利用することができます。
このような暗号資産についても、ある程度提供者が明確な場合もあれば、提供者を想定することが困難な場合もあります。
そして、提供者を想定できたとしても、いわゆる電子マネーの提供会社に対する関係のように債権債務関係として想定するのは困難な場合が多いといえます。

別のチーム?

6月 27th, 2022

スワローズがあまりにも強いです。
昨年の日本一も驚きました。今年はさらに強くなって,交流戦優勝して,セ・リーグをダントツで独走中。史上最速のマジック点灯か,なんてことになっています。



現状の強さの理由は,強力な救援投手と,勝負強い打撃陣です。



通常,救援陣は3人それなりに通用する人がいれば勝ちパターンが形成されて,他に大きな問題がなければチームもそれなりに強くなります。真中でリーグ優勝したときの外人3人組とか,去年の後半でいえば今野,清水,マクガフといったあたりです。ところが,今年のスワローズは,これが7,8人いる感じです。その結果,交流戦終了時点での救援防御率が1.85なんて書いてあります。つまり,勝っていようが負けていようが,6回以降からはリーグトップクラスのピッチャーが毎試合でてきているような感じです。6回以降は滅多に打たれないということになります。



これとは逆に,今年は打撃陣は相手の勝ちパターンを打ち崩しています。そのため8回あたりに逆転することが多い気がします。



その結果,5回終了時点で,ヤクルトが勝っていればそのまま救援陣が抑えて勝ち。同点なら,ヤクルトは点はとられない反面,ヤクルト打撃陣はどこかで点を取ってくる。ヤクルトが負けていても,ヤクルトは勝ちパターンではない中継ぎもほとんど打たれないので相手は追加点を奪えない。その間に,相手の勝ちパターンを打ち崩して結局勝ってしまう。
ということで,終わってみると勝っているということがとても多い。



ここのところ救援陣が結構打たれだしているので,この状況を続けられるわけではないでしょうが,いずれにしろ強いわけです(結局,村上が最後に勝たせてくれている)。



でも,正直言って,このチームはスワローズなんだろうか?という変な感じも受けます。最近,3回の優勝(若松,真中,高津)はいずれもギリギリの優勝でした。野村監督のときは,独走態勢になったこともあります。でも今年ほどではなかった気がします。正直,ここまで強い状況は未経験で,なにか変な感じです。「今日は勝たなくてもいいじゃない?」という気がしつつあるほどです。



おそらくはチームとしても,そのあたりが超えるべき壁になるかもしれません。この先,急失速して優勝を逃すとしたら,そのあたりなのでしょう。そして,それを乗り越えたときに,昔の西武みたいに勝って当たり前の状況にチームが慣れてきて本当に強いチームになるのだろうと思います。
でも,その常勝チームになったスワローズを応援できるんだろうか?なんて気もするのも確かです。
とはいえ,野村監督就任の報を聞いたときは,「勝たなくてもよいから,小うるさい野球はやめてくれ」なんて思いましたが,退任ときは「野村監督,ありがとう」という気持ちになってました。
スワローズファンとして,新たなゾーンに突入できるのか?そんなあたりを楽しみにしたいと思います。

シミュレーション仮説

5月 29th, 2022

今、この現実と思っている人生はゲームに過ぎないのではないか?
というのは、小さい頃からたまに感じることではありました。今、シミュレーション仮説とかいうことで、それなりに表に出てきているようです。まあ、バーチャルリアリティやメタバースだということで、一瞬現実を忘れるほどの道具が実用化されつつあると、当然、意識することになります。



人生や現実諸々を考えるとき、「ゲームに過ぎないのではないか?」という考えは、非常にきれいな説明をしてくれることが多いので、魅力的ではあります。
とはいえ、結局のところ、何でも説明できてしまうので、根本的にはあまり意味がない(間違っているというわけではない)ともいえます。何が起こっても「それは神の意志である」と説明できてしまう、というのと同類です。「何事も自然が一番」なんて言うのも同類ですね。



そんな中、裏側にプレイヤーのいないキャラクターをプログラムの類(AIによる裏付けを含む)で実現しているうちに、そいつらが意識を持つのではないかなんて話もあります。まあ、それはないだろうと思いますね。



まず何と言っても、自分以外の人にも同様の意識があるということ自体がある種の幻想というか、人間の思考回路が生み出す幻のようなものです。だから、自分とよく似た見かけをしている人間という生き物だけでなく、犬や猫に対しても「自分の気持ちをわかってくれている」と称して話しかけたりしますし、ぬいぐるみに対しても同様です。
もっといえば、自然災害が起こっても「〇〇がお怒りになっている」からということで、何らかの意志の存在という幻影を抱くのです。道端に石ころがあって転びそうになっても、とっさに誰かの悪意や愚かさを探究したくなります。
ということで、人間があるモノに意識があると感じるかどうかは、そもそも何かが意識を持っていることとあまり関係がないといえます。



なので、それを超えて本当に意識があるのかどうか等と考えることができるのか怪しいところではありますが、まあ、そうこうことができるとします。
そういう場合、知能水準が人間以上になれば、そのような意識が生まれると思いこんでいる輩が多いです。人工知能が一定レベルを超えると大変なことになるぞ(シンギュラリティ)とか。
でも、人間が知能があるかのように振る舞っている会話をよく観察すれば、知能に基づくやりとりなんてほとんどしていないことに気がつくはずです。会話の多くは、武勇伝の類だったり、同情を求める話だったり、他人の悪口だったり、説教だったり、ファン意識だったり、相手との会話がデタラメにならないギリギリのところ(ここに多少、知能を使う)でスキついて、言いたいことを言っているだけです。武勇伝を言いたくなるのは、尊敬を得たいという欲求があってこそです。同情、悪口、説教、ファン意識、いずれにしろ欲求があってのことです。もう少し複雑化すると、下心や好意にもとづいて、相手が喜ぶような話をする(武勇伝に驚いて見せる、褒める)なんていうのもあります。
何かより高尚っぽい思想とか意見の類だって、考えているような素振りをみせていても、頭の中では「その意見を持っている自分」と「別の意見を持っている自分」を想像してみて、どちらが気持ち良いか比べているだけのことが多いといえます。
会話の主題のひとつである「本日(近況)の出来事」の報告も、自分がどう思われたいかという欲求がないと、話題の取捨選択ができないような気がします。



この類の欲求なり、下心なりがなければ、そもそも会話をしたいという欲求が生まれず、話すことがなくなってしまいます。つまり、いくら人間のような知能を備えたところで、この手の欲求等がなければ、意識があるようにはなりません。もちろん、武勇伝を聞いてやるだけのロボットはできるでしょうが(人間よりも適切に、驚いてみせたり、質問してみたり)、それは、スーパーぬいぐるみのようなものといえます。
またはプログラムに快楽パラメータを仕込んで、武勇伝を聞いてもらっているとそのパラメータの値が高くなるようにしておいて、そのパラメータを最大化するよう行動するよう仕込むことはできると思いますが、まあ、恐怖の人工知能とうものとはだいぶ違いそうです。



別の見方をすると、ドラマを見たくなったり、スポーツを応援したくなったり、特殊な趣味を持ったりするようにならないと、人間に言わせれば「心がない」ということになるのではないかと思います。



さらに、脳科学の成果からすると、人間は意識が「こうしよう」と思う前に勝手に動いているようだし、よくよく自分の動きをみていると確かにそういう気がします。となると、シミュレーションというのは自分がプレーヤーなのではなく、人(または自動で動くプログラム)のプレーを見ているだけなのに、自分でプレーしているだけというのが帰結なのかもしれません。

まゆつば健康論

4月 24th, 2022

年をとってくると健康論を語りたがる人が増えます。
若返り計画遂行中の身ですが、(自戒を込めて)人が考え出す健康論、現代の健康論がいかにしてデタラメになるかについて書いてみます。



いわゆるプラセボとかノセボがあります。つまり、全く無駄な薬(健康法)でも体によいと思ってやれば、本当に体によくなります。また全く無害な食べ物(行動)であっても、体に悪いと思い込んでいたら、実際に体調は悪くなります。
さらに、確証バイアスが働きます。一度、これは健康によい、と思い込んだら、それに見合う情報のみを取り入れ、たまに体調が悪くなる情報は無視されて、どんどん確信を深めていきます。



まあ、個人の実感に基づく健康論はそんなところですが、デタラメでも実際に健康になる以上、あまりゴチャゴチャ言う実益はないのかもしれません。



で、こういう健康論を支える専門家と言われる方々のご説は、どうでしょうか。プラセボやノセボの影響を排除したり、血液データ等を分析したり、色々していそうなので信用できそうです。でも、結局のところ視野の狭さからくる問題を回避できていない気がします。そんなわけで、色々とあることないことを書いていきます。



深い睡眠?



ほとんどの人は、深い睡眠をきっちりとることが大事だと思っています。深い睡眠をとれずに夜中にチョコチョコと目覚めたりすると何か体ができそこなっているのではないかと思ったりします。昼間に眠かったりすると、へんてこな症候群にされかねません。そして、睡眠について書かれた諸々を読んでみます。で、大半の本には深い睡眠の重要性と深い睡眠をとるための方法が書いてあります。
でも、野生動物も、狩猟採集生活をする人間(人間の遺伝子はこの生活に適応するよう形成されている)も夜中に深い睡眠をして昼はパッチリなんてことはないようです。浅く短い睡眠を繰り返しとりながら生活します。そりゃあ、色々危険がありますから当たり前です。なので、これが標準状態です。病気ではありません。
まあ、睡眠研究をかたりたければ、このあたりから踏まえて考えて見る必要があるでしょう。



空腹で力がでない?



「腹が減ったら力がなくなってくる」と信じている人が多くいます。腹が減ったら戦はできぬ、とか。これと逆のことを言う人はあまり見たことはありません。
でも、腹が減って力がなくなるような生き物は、生存競争で生き残れません。腹が一杯になったら、体力も気力もなくなって、腹が減ってきたら体力も気力も充実してきて、餌を捕まえに行くようになっている、なんて当たり前のことです(餓死する寸前はさすがに駄目かもしれませんが)。なので、腹が減ってきたら、体力も気力もなくなってくる感覚はおそらく(アンパンマンに三つ子の魂を洗脳された可能性もあります)、ノセボです。そういう気がしているので、気力がわかないのだろうと思います。



塩分補給



汗をかいたら塩分を補給しないと駄目になってしまうと思いこんでいる人も多くいます。
でも、精製塩を人間が手に入れられるようになったのは、人類史のうちごく最近のことです。それまでは、どうしていたのでしょう?どうもないと思います。精製塩が手に入らない時代、人間の塩分摂取量は現代人よりは大幅に少なかったでしょう。そして、暑い中狩猟をすれば、それなりに汗をかいたでしょう。でも、塩分補給は必要なかった、というよりそのような塩分の入手手段は存在しなかった。そのような環境に適応して今の人間の体は形成されているのです。そうなると、マラソンのような特殊な行いは別として、ある程度(つまり狩猟で動物を狩る程度の運動量)で塩分がないと駄目というのは、眉唾な気がします。



水補給



水分補給も同様です。脱水症状だなんだとよく言います。でも、森の中であれサバンナであれ、水なんていつも好きなように補給できるわけではありません。そういう環境で活動するよう適応して形成されている人間の体が、チョコチョコと水を補給しないと駄目になってしまうというのは、誰が考えついたのでしょうか。カエルのような水辺の生き物についての理屈のようです。



お腹がいっぱい



これは自分もそうなのですが、一食分+αを超えるとお腹がいっぱいになって、これ以上食べられない気がします。お腹の容量を超えているようで、これ以上無理して食べるとお腹を壊します。
でも、これもおかしな話です。今のように、1日3食なり、それプラスおやつなりで、チョコチョコと食べるというのは現代社会の習慣です。人間の体が適応してきた状況は、数日はほとんど食べないでいて、大きな獲物が手に入ったら一気に食べてエネルギーを蓄える、というものです。ですので、人間の体は数日分かそれ以上の食べ物を一気に食べられるようにできていると思われます。
ですから、無理して食べてお腹を壊すのはノセボの可能性が高いと思います。



紫外線



紫外線の危険性もよくかたられています。
少し前ですが、紫外線の危険性を世間に伝えてきた専門家が言っていました。紫外線の危険性を伝えてきたが、あまりに紫外線を避けるようになったので、ビタミンDが不足するようになった。ビタミンDの形成に必要な程度には紫外線を浴びるように推奨するようにしている。
専門家のいう健康情報の視野の狭さを象徴していて面白かったです。
人間の体のことは、ほとんどわかってないです。人間の遺伝子は、10万種類のタンパク質を形成し、そのタンパク質のほとんどは酵素として化学反応を媒介しますが、その働きのほとんどはよくわかってないでしょうし、数が大きすぎて理解は難しいでしょう。それ以外にも存在が判明していない、作用が解明されていない無数の化学物質が人間の健康をコントロールしています。
免疫細胞についても極めて複雑で、理解しようとすればするほど、複雑な事象が現れます。人間の体表や体内に多量(人間の細胞の数よりだいぶ多い)の微生物が住み着いていて、その共生によって人間の健康が保たれていることもようやくわかってきたばかりです。
そんななか、ごく僅かにわかっているものの一つがビタミンで、紫外線との関係がわかっている健康関係化学物質です。
それ以外のタンパク質、化学物質、免疫細胞、微生物、その他諸々と紫外線との相互作用は、存在しないと証明されたわけはなく、まだ全く研究が始まってすらいないというのが現状でしょう。そして、おそらく(ほぼ間違いなく)、これらの中に紫外線と重要な相互作用をしているものがあるでしょう。



つまるところ、紫外線と健康との関係については、



  • 皮膚に対しては悪い作用を及ぼすことある
  • ビタミンDを作るという点ではよいことがある
  • それ以外にも大量の相互作用があることが予測されるが、まだ全く未解明である


ということなのでしょうが、3つ目のことを無視して考えているのだろうと思います。
いずれにしろ、人間はある程度紫外線を浴びる環境に適応して体を形成してきているので、それを妨げるとロクなことにならない可能性が高いと言えます。





そんなわけで、おおかた狩猟採集生活との比較になりましたが、基本的に人間の遺伝子はその生活に適応しています。なので、狩猟採集生活と矛盾するかどうか、というのは、健康論の当否を判断する一つのメルクマールといえます。