ChatGPTと弁護士業務雑感

2月 27th, 2023

ChatGPTが話題になっています。
プログラムを調べる場合には、従来のWEB検索より大幅に便利な気がします。
では、弁護士業務への影響はどうでしょうか?



法律上の調べ物については、まだ、うまく動いているとはいえないようです。
将来改善していって、正答率が上がったとしても、たいていの場合は「専門家の保証」が必要とされる気がします。そういう点では、一般の人が法律相談をするという使い方の代替は難しいのかなと思います。
弁護士の調べ物では、あれって何条だったけ?とかあの最高裁の日付はなんてときにはWEB検索より便利な気がします(もっとも現状では回答はデタラメなので将来の改善に期待です)。
とはいえ、将来改善していくのかは、怪しいといえます。現状は、たくさんのプログラムなり法律情報があるので、それを学習してより正確な答えをだすことが期待できます。
ただ、そういう情報をWEB上で掲載するのは、名誉心なり親切心なり商売上の理由なり色々でしょうが、ChatGPTの学習材料にしかならないとなると、そういう情報を掲載する人が大幅に減少してしまう気がします。そうなると情報の精度が下がってしまうと思います。



文章作成補助については、うまく使えば役に立ちそうです。弁護士の業務上、裁判提出文書なり依頼者との連絡なりで、(法律家なりに)わかりやすい文章を書くことが要求されることが多いです。その結果、文章を作る作業にエネルギーを消耗することが多いです。ここでChatGPTに適当に書いてもらって、参考にするというのはなかなかよい使い方だと思います。
さらにいえば、打合せ→音声認識による文字起こし→AIによる文章化ということをすれば、かなりの業務が自動化されるかもしれません。



その結果、懸念されるのは、裁判上のやりとりでそういう文章が大量に出てくる事態です。現状でも、まとまりがなく長大な裁判文書を出してくる弁護士が少なからずいて、それを読んで対応するという大方無益な作業に多くの弁護士が消耗しています。となると、それをChatGPTにようやくしてもらうという誘惑は当然出てきます。
そしてこのような誘惑は当然裁判官にもあると思います。将来的には、弁護士は依頼者との打合せ内容を打合せ→音声認識による文字起こし→AIによる文章化して裁判所に提出。裁判所はそれをAIに要約してもらったもののみを読むなんてことになりかねない気もします。



等と色々と考えてしまうレベルでよくできていると思います。

同性婚の問題点

1月 24th, 2023

昨今、同性婚を認めるべき、というような論調が増えています。
まあ、それはそれでよいのですが、本当に良いのかは、よく検討する必要があります。



まず、混同してならないのは、同性愛の相当性と同性婚の問題は全く別ということです。
同性愛の相当性については、聖典の民(ユダヤ、キリスト、イスラム各教)系での禁忌の影響があってガタガタしています。日本や古代ギリシアでは寛容でしたし、動物にも見られるものなので、まあ、それぞれの趣味の問題であって、不自然なものとして嫌悪すべきものではない、ということでよいのでしょう。
別の見方をすれば、社会には性的な嗜好を理由に他人を攻撃する人が一定程度いて、今は小児性愛者をターゲットに攻撃を繰り返している人が、ある時代では同性愛者を攻撃していたということかなと思います。



でも同性間の婚姻を認めるとなると、次のような疑念が発生します。



兄弟間や親子間の同性婚は認めるべきか?



異性婚では、兄弟や親子での結婚は近親婚として遺伝的問題が生じることから禁止されています。しかし、同性婚ではそのような問題はありませんので、立法趣旨的には同性婚については兄弟や親子間でも認めるべきということにすべきと思います。でも、どうなんでしょう。



3人以上の婚姻を認めるべきか



異性婚ではあくまで婚姻は2人間です。それは、その間に子供ができることを前提に、その父親と母親という前提があるからです。しかし、同性婚ではそのような問題はありません。愛し合う3人の同性が「どうしても結婚したい」と言っている場合、それを認めないのは、今同性婚を求める人が「どうしても結婚したい」といっているのと何が違うのかはよくわかりません。



動物との結婚を認めるべきか



何を言っているのかと思うかもしれません。でも、旧約聖書での同性愛禁止の話は同性愛と動物愛を同列に扱って禁止しています(レビ記18の22が同性案禁止、23が動物姦禁止)。日本でも、遠野物語では、馬と結婚した女が出てきます。つまり、同性婚より、より性的少数者とうことになるのかなと思いますが、真剣に動物と愛し合っている人の権利はどうするのでしょうか?同性愛まではまともで、動物愛はキチガイということを言い出すとしたら、性的マイノリティーの保護という発想からは、いかがなものか、ということになるのだろうと思います。



もっといえば、ぬいぐるみやフィギアと結婚したい、とか、アニメキャラと結婚したいという人がいた場合、その切実なる思いは無碍にしても良いのでしょうか?



問題はどこに?



なぜ、こういうことになってしまうのか、というと、結婚を愛情による結びつきを公的に証明する制度と考えることが原因なのだろうと思います。もともとは子供ができることによる法的関係を整理するための制度だったのだろうと思うのですが、社会に意識の変化によって、変わったのでしょう。つまり、愛情による結びつきを公的に証明するのであれば、同性の婚姻を認められるべきということになってくるということです。



また、上記の検討でわかる通り、公的に結婚の対象となる愛情をどこまでにするかは、どこかで線引きせざるを得ないだろうということです。その線引きとして、同性愛についても近親婚を禁止した上で2人の関係にするというあたりが、より合理的な線といえるだけのものがあるのか、というとよくわかりません。



現実に困っていたり不便を感じていたりする人がいて、その救済手段として同性婚を認めるということなのだろうと思います。他の救済手段と比較した場合、結局のところ、上記での線引きで同性婚を認めるのが合理的ということも十分ありうるのかなとも思います。ただ、それで済むのか、それが達成された場合、可愛そうな人を見つけ出して騒ぐことを生きがいにしている人が次の段階として、近親での同性婚等、上記の様々なことを言い出す可能性があるとうことも考えておく必要があるとは思います。



結婚制度というのは、愛情を公的に証明する制度ではなく、男女間で子供が生まれることによる法的関係を整理するための制度であるととらえれば、現状維持のほうが合理的ということになろうかと思います。

今年読んだ本2022

12月 21st, 2022

ピダハン――「言語本能」を超える文化と世界観
アマゾン流域で暮らす原住民の話ですが、かなり面白かったです。
「直接経験したことしか話さない」という社会的規範があるから、著者の宣教師がキリストの話をしても「お前はキリストを見たのか?」という話になって、「大昔のことなので見ていない」というと「は?」という失笑とともに終わってしまうとか。
それ以外にも特殊な文化的規範が多数あって、異様に幸福そうに暮らしているとのことです。
何か困ったときは「ピダハンならどうする?」と考えるのも無駄ではなさそうです。





ヤノマミ
ピダハンが面白かったので、似たノリで。
想定外の文化のことを知るのは刺激になります。出産直後の子供を育てるか否かの選択権は母親にあるとか。
ただ、どちらかというと物悲しさがあります。現代文明との接触→文明の利器を欲しがる→街にいって物乞いや売春をはじめる というパターンとか。





われわれは仮想世界を生きている AI社会のその先の未来を描く「シミュレーション仮説」
この世界はより高度な世界で作られたゲームなのではないかという話。何でも説明できてしまう理屈なので検証もしようもないし、有用性もないということで自分の中では決着していた理屈です。
ただ、量子力学との親和性は確かに面白いと思います。
コンピュータで世界を生成→世界がビット化(量子化)。
プレイヤーが見る限りにおいて世界を生成→量子力学の観測問題
なんてあたりです。





ルワンダ中央銀行総裁日記
国家といえるのかどうか、というレベルの国の形を整える話で面白かったです。





サラ金の歴史 消費者金融と日本社会
一時期、仕事の中心が対サラ金だったので、ちょっとした懐かしさとともに読んだ見た本。
「サラ金をけなす」というノリではなく、なかなか面白かったです。



GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代
純文学を読んだつもりが水戸黄門だったという感じ。
世界を良い人と悪い人に分けて、最後は良い人が得をするというような。後に読んだ「ストーリーが世界を滅ぼす」ではないが、勧善懲悪のお話に接すると人間の批判能力は減退して、感銘を受けてしまうのだろうか。



21世紀の貨幣論
仮想通貨に興味を持ったあたりで、貨幣そのものについて理解を深めようかと考えて読んでみた本。仮想通貨には触れていないが、なかなか面白かった。
特に、石貨フェイの話(フェイはお金なのだが実際には使わない)は興味深かったです。





戦国の作法 村の紛争解決
ブロックチェーンの世界において、最終的には国家権力による秩序維持は無理なのではないか。ということで、国家権力が弱かった時代の自律的な秩序形成には興味があり、そんなノリでよんだ本。
論じ方のスタイルが独特で一般化した部分には説得力を感じず、断片的な情報の面白さという感じ。





心はこうして創られる 「即興する脳」の心理学
「心の奥底の本当の自分」なんてものはないという話。その場その場で適当なことを言っているだけ、ということです。感覚的にもわかる気がして、説得力があります。
「本当の自分」がどうのとかいって、迷宮に迷い込んでいる人は、その手の概念はオカルトであることを理解することが解決の早道になりそうです。
「子供の気持ち」の類も、同様に幻想なのだろうと思います。





ストーリーが世界を滅ぼす―物語があなたの脳を操作する
人間は勧善懲悪の物語の中で生きていて逃れられないという話。
正直、人間が意見を述べたり議論をしたり、というのは単に「そういったことを言っている自分が好き」で、それをアピールしているだけで、何か正しいことを見極める気などサラサラないように思えていました。この本の説明からすると、これも勧善懲悪の物語の中で正義の味方としての自分を生きる行動ということで理解可能かもしれません。





アジアンラリー完走しました。

11月 30th, 2022

アジアクロスカントリーラリー(アジアンラリーAXCR)という国際的なラリーがあります。
東南アジアを舞台に,例年,夏休みに開催されます。



2年前に出場しようと思ったのですが,コロナの影響で2020年,2021年と中止になりました。
ようやく今年は時期を11月にずらして開催されたので,バイクで出場しました。今年はタイとカンボジアでの開催です。



体調面等,もろもろ不安も大きく,かなりビビっていました。なので,「ギリギリになって嫌になったらやめればよいや」「途中で難しそうだったら,近道で宿泊場所のホテルに直行しても良いらしいので無理だけはやめておこう」という十二分に逃げ道を用意しての参加です。



相変わらずですが,参加者の中で自分が圧倒的に遅いことはすぐにわかりました。
人様と競争する気はなくて,個人的な冒険として位置づけなので,他の人より遅いのはよいです。ただ,途中で時間制限がある(オーバーしても失格になるわけでなくペナルティがつくただけ)ことに気がついたので,とりあえず時間制限内で走ること目標にしました。



ラリーでとおる道はルートマップにしたがいます。ただ,これが分かりにくかったり,間違えていたりしていて,一筋縄には行きません。そんな謎解き的要素もあるので,スピードが一番遅いからと言って,常にビリになるとは限りません。ただ,一番遅いと,誰かについていくことはできないので,すべて自分でルートを見つけ出していく必要があります。
また,道に迷って時間ロスをしたときに,その時間を取り戻すのも難しくなります。



そんな感じで5日間+αのラリーを,なんとかノーペナルティー,ノーコケで完走することができました。自分の現状からすると,これ以上ない結果だと思います。



様々なサポートには感謝ですし,バイクにトラブルがなかったのはラッキーだったといえます。



とりあえず,ここ何年かの間,自分の中で大きなプレッシャーになっていた挑戦を無事終えることができて,ほっとしています。

FTX破綻か?

11月 11th, 2022

世界的に大手のFTXという仮想通貨取引所が大変なことになっていて、破綻の可能性が取り沙汰されています。FTX騒動のまとめという記事



日本でも日本版FTXの口座を持っている人が少なからずいると思います。
というのは、ブロックチェーンを利用する上で重要なsolanaという仮想通貨を日本の国内取引所で扱っているのは少し前までliquidという国内取引所だけで、これがFTXの傘下になり事実上FTXの口座に移管されたからです。
少し前まではsolanaを利用しようと思うと、日本の取引所以外に海外のバイナンス等に口座を作った上で、日本の取引所でxrp等の送金に適した仮想通貨を購入し、これをバイナンスに送金しそこでsolanaに換金するしかありませんでした。その後、liquidがsolanaを扱い出したおかけで、日本円で直接solanaえを購入できるようになったという経緯です。



被害を出さないために色々となされてきた国内取引所の規制がうまく機能するかどうかが試されていると思います。



また、solanaの金額も、FTXとの関係が強いということで、暴落しています。今後どうなるかはわかりません。
とはいえ、やはりイーサリアムに比べると圧倒的にガス代が安い。送金等もほとんど気にならない額で行うことができる。というメリットがあります。
さらに最近になってEVM互換になるということです。記事



これはsolanaでイーサリアム上で作られた様々なものが利用できるということになるので、おそらくsolanaの最大のデメリットが解消されたのではないかと思います。
たとえば、日本でブロックチェーンの勉強をしようと思うと、イーサリアムで動くsolidityというプログラムの本は沢山あって色々勉強できます。でも、実際にイーサリアムを動かそうと思うと、動かすコストが高すぎてやる気が起きません。
逆にコストが安いsolanaを試そうと思っても、solanaで動くプログラムの本はほとんどありません。



ところが、solanaでsolidityが使えるとなると、安いコストでプログラムを試してみることができるようになります。
そんな感じでブロックチェーンプログラムの普及が促進されるのではないかと思います。

岸田首相 Web3サービス利用拡大に言及

10月 7th, 2022

岸田首相が、所信表明演説でweb3サービス利用拡大に言及したとのことです。



さてどうなるか、楽しみなところです。
ブロックチェーン関係についての態度については、中国のように拒否する方向もあれば、米国のように比較的緩やかな方向もあり、国によって色々です。
私は、Web3の方向はとても面白いと思うので日本が推進方向に行くことはうれしい限りです。



ただ、実際うまくいくかというと、なかなか難しいだろうと思っています。



金融庁は不適切では?



まず、推進するのであれば、暗号資産取引所の金融庁の所管を取り上げる必要があるのでは、と思います。
金融庁が暗号資産取引所を管理する限り、暗号資産を投資商品としてとらえ、過度に投機的なものは消費者保護の観点から禁止すべき、という観点から離れるのは困難です。その結果、現状、Web3サービスを利用するのに不可欠なネイティブトークンの入手が困難な状況が生まれてしまっています。
日本人がWeb3サービスを容易に利用できるようにするためには、利用に必須のネイティブトークを容易に入手できるようにする必要があります。
暗号資産取引所が扱うべき資産を決めるにあたっては、投機的かどうかという金融商品を扱う視点ではなく、Web3サービスを利用するために便利かが重要です。この観点からすると、金融庁所管では適切な判断は困難と思われます。



ガラパゴス化の危険



また、今回のWeb3を拡大する意図としては、日本発のキャラクター等をNFT化することで世界的に収益機会を求めるようなことがあるようです。
ただ、正直、日本の現状では、そのようなストーリーはイメージが湧きにくいです。日本の既存のIT企業がプライベートなネットワーク上で日本人相手にNFTを販売するというのが関の山で、そこから世界へ拡大する道はほとんど開かれてはいなさそうです。
仮に日本初のNFTアートを世界へ、というのであれば世界中の人が使うプラットフォームでNFTアートを販売する必要がある。ところが、日本人はネイティブトークンの入手が困難で、そのプラットフォームを利用できないから、日本人に売ることからスタートすることができず、いきなり海外市場を相手にする必要がある。そうなると、どうみても海外勢が有利。
日本の既存のIT企業としては、Web3の拡大は収益基盤を損なうことから、自らのWeb3事業の拡大にあわせた形で国内のWeb3事業が拡大することを望んでいて、政府への影響も強い。ただ、これに乗る限り、世界で戦える余地はなさそう。
なんて感じです。



自己責任特区へ



いずれにしろ、消費者保護とか権利者保護、とか保護がどうのといっていると駄目なのだろうと思います。
Web3的世界が一定段階が進んだときは、各国の国内法の適用はほとんど意味がなくなるだろうと思います。ある種の自己責任と、参加者の一定のモラルとルールによって成り立つ世界です。
中国等がブロックチェーンの世界に厳しい態度を取るのは、これが見えているからだろうと思います。この問題に対して中途半端な姿勢は難しいです。
なので、Web3の推進をするのであれば、ブロックチェーン関係の世界は自己責任特区として、国内法の適用は考えないというくらいの姿勢を示すことが肝要なのだろうと思います。

仮想通貨に対する強制執行

9月 21st, 2022

仮想通貨に対する強制執行には様々な問題があります。まずは、他のサイトや書籍等でも書かれていると思われる基本的な考えをまとめた上で、その先の問題について書こうと思います。



基本的な状況



仮想通貨の中でもビットコインに対する考察が基本となります。その上で、ビットコインは所有権の対象となる物でも、債権でもないということになります(何であるかについては諸説あります)。
仮想通貨の保存場所として、取引所に保管している場合と、個人的にウォレットで管理している場合に区別します。



取引所に保管している場合



債務者が取引所に仮想通貨を保管している場合は、証券会社に保管している株式や投資信託に対する強制執行と概ね同様であり、大きな問題はありません。
取引所自体が裁判所の手続きに不慣れなこと、多少は法的性質について議論する余地もあること、書式等がまだ洗練されておらず思わぬ漏れが生ずる可能性があること等の小さな問題はいくつか予測されます。



個人のウォレットで管理している場合



債務者が個人のウォレットで管理している場合、仮想通貨が物でも債権でもないという性質が全面に出てきます。物や債権を前提にした強制執行手続きを直接的に利用することが難しくなります。
秘密鍵を入手できていれば、執行官とともに試行錯誤しながら、最終的には強制執行を奏功させることは期待できます。しかし、秘密鍵が入手できない場合、とりうる方法はなく、強制執行は事実上不可能となります。



発展的検討



上記の議論からはずれた部分について検討します。



海外の取引所で仮想通貨を管理している場合



債務者がバイナンス等の海外の取引所で仮想通貨を管理している場合も、理論的には国内の取引所管理と同様ということになります。しかし、下記のとおり、現実的には強制執行は難しいものと思われます。
なお、海外の銀行口座等でも同様の問題はありますが、仮想通貨の外国取引所の利用は敷居が低いので、海外の銀行口座に比べると問題になりやすいと思われます。



第1関門 債権執行の国際的管轄



 債権執行の国際的裁判管轄については明確ではありません。なので、とりあえず日本の裁判所に申し立てをすることになります。
 しかし、裁判所が管轄を認めるかどうか、は何とも言えないです。
 仮に日本の裁判所が管轄を認めない場合は、海外取引所の本拠地で執行申してをすることになります。場合によっては、はじめから判決の取り直しが必要かもしれません。しかし、そこまでする価値がある事案はレアだと思われます。



第2関門 日本の裁判所の命令に従うかどうか



 日本の裁判所が差押命令を出したとして、それが海外取引所に届いたとします。しかし、海外取引所が、それに素直に応ずるとは限りません。
 海外取引所が差押命令に応じた場合、債権回収はうまくいったといえます。
 応じない場合、次の手段を取ることになりますが、見通しは難しいです。



第3関門 取立訴訟の国際的管轄



海外取引所が日本の裁判所の差押命令に応じない場合、海外取引所を相手に取立訴訟を提起するというのが日本法での流れになります。
この裁判の国際的管轄が認められるかどうかも、民事訴訟法の規定がインターネットでの仮想通貨取引を想定していないことや、国際的管轄合意の内容等により左右される可能性があることから、やや不透明です。
これも日本で管轄を認められない場合に、海外で裁判をする実益がある件はレアだといえます。



第4関門 海外取引所に対する執行の国際的管轄



取立訴訟に勝訴した場合、海外取引所の財産に対して強制執行ができます。しかし、この強制執行について日本の裁判所でできるかは、やはり不透明です。



第5関門 海外取引所に対する強制換価



日本の裁判所の強制執行命令に海外取引所が従わない場合、強制的に海外取引所の財産を換価できることになりますが、現実的に日本に財産を持っていない海外取引所に対して、どのような手段がとりうるのかというと悲観的な見通しになります。



ビットコイン以外の仮想通貨について



次に、ビットコイン以外の仮想通貨(及び仮想通貨的なもの)について検討します。
ビットコインについては、管理者が想定できないことから、債権ではないことになり法的問題が色々と発生しました。しかし、それ以外の仮想通貨についても、同様な議論が成り立つかというと、一概にそうとは言えません。
仮想通貨は、基本的にはブロックチェーン上の台帳記載に過ぎません。誰がいくら送金した、ということがが記載された台帳です。ビットコインについては、台帳の記載以外に何もないのですが、通常の債権債務の譲渡をブロックチェーン上に記載してもよいわけです。その場合は、ブロックチェーン上の記載は債権を表していることになります。



ステーブルコイン



ステーブルコインコインというものがあります。ドルや円等に連動した仮想通貨です。
様々なものがありますが、日本で解禁されるにあたっては、発行者の資格が制限され(つまり管理者が存在する)、いつでも円と交換できる形になりそうです。
となると、その仮想通貨は発行者に対する債権と考えることができそうです。ビットコインの議論が当てはまる可能性はないだろうと思います。



ユーティリティトークン・ガバンストークン



ユーティリティトークンとは、ゲーム等のサービス内で利用できる仮想通貨です。ステーブルコインのように金銭債権ではないですが、その通貨と引き換えにゲーム内での一定のサービスの提供を受けることができるわけですから、ゲーム提供者に対する債権と考えることができます。
ガバナンストークンは、何らかの組織に対して一定の地位があることを示す仮想通貨です。意見表面の権利があったり、方針決定の多数決に参加できる等、株式的なものといえます。
ユーティリティトークやガバナンストークンの中には、市場で取引され価格がついているものもあります。
強制執行を考える上で、金銭債権ほど容易ではないですが、ビットコインの議論が当てはまる可能性は少ないだろうと思います。強いて言えば、ゲームの提供者や、組織の運営が完全に分散化されて、提供者が想定できない状況になった場合に、ビットコインの議論が当てはまる可能性があります。



プルーフオブオーソリティのネイティブトークン



誰でも利用できるパブリック・ブロックチェーンにもいくつか種類があります。ビットコインは、プルーフオブワークといって、ブロックチェーンを構成するコンピュータ(ノード)に誰でも参加できます。なので、全ノードを管理する誰かを想定することは困難です。
ところが、プルーフオブオーソリティという方式もあります。この場合、ブロックチェーンを構成するコンピュータに誰でも参加できるわけではなく、特定の企業や組織が管理するコンピュータのみが参加できる形になります。バイナンス・スマートチェーンが一例です。ブロックチェーンを構成するコンピュータを管理するものとして、バイナンス社を想定することができます。
バイナンス・スマートチェーンを利用するのに必要なネイティブトークンがBNBです。ブロックチェーンの提供者であるバイナンス社に対して、利用を請求する権利を示すと考える余地があります。
この場合も、ビットコインとはだいぶ異なり、債権と考える余地があります。



プルーフオブステーク・プルーフオブワークのネイティブトークン



パブリック・ブロックチェーンのうち、プルーフオブステークやプルーフオブワークの場合、ブロックチェーンを構成するコンピュータ(ノード)に誰でも参加できます。ただ、イーサリアムやソラナ等はいまだ様々なアップデートを行ったりしています。つまり、ブロックチェーン全体の方向性を仕切る集団がいるということです。
その集団に全権があるわけではなく、ある種のアップデートについて意見が分かれる場合は、ハード・フォークといってブロックチェーン自体が分岐していしまいます。最近も、イーサリアムがプルーフオブワークからプルーフオブステークに移行するにあたって、反対派が分岐しています。
とはいえ、ビットコインのように完全に管理者特定不能というわけではなく、一定の管理者が想定できるといえます。
そうなると、イーサリアムにおけるETHのようなネイティブトークンは、イーサリアムというブロックチェーンの利用料として想定されているので、イーサリアムの管理者に対する債権と考える余地もあります。



小括



このように、ビットコインについてなされている議論が、他の仮想通貨についても通用するかというと一概にそうとは言い切れません。かといって、ビットコインだけが特別であって、ビットコイン以外はすべて債権というのも難しいのではないかと思います。ビットコインも、初期はサトシ・ナカモトのグループが色々と仕切っていたようですので、徐々に分散化していくイメージがあるといえます。
もっとも、仮に債権と言える余地があるとしても、たいていその債務者(執行における第三債務者)は、海外の組織であり、債権の準拠法も日本法以外ということになり、現実的に執行するのは海外の取引所に対する執行よりもハードルは高そうです。
とはいえ、管理・提供組織が国内組織の場合だったり、額が非常に大きい場合等では、その仮想通貨がは債権と言える余地がないかは検討に値するのではないかと思います。



動産執行で、秘密鍵・パスフレーズを探すべし



最後に少し毛色の違う補足です。債務者が、仮想通貨を、取引所ではなく自らウォレットで管理している場合、秘密鍵がわからない限り強制執行は困難とされます。
逆に言えば、秘密鍵を入手できれば強制執行の余地がでてきます。
また、通常のウォレットでは秘密鍵では管理が困難なため(意味不明で長い文字列)、パスフレーズという12語または24語の英単語を利用することが多です。
いずれも、通常のパスワードのようにメモ帳やパスワード管理ソフトに簡単にメモしておくには、少し長いです。そのため、印刷してどこかに保存してある可能性があります。
なので、動産執行によって自宅を探す場合に、秘密鍵やパスフレーズを発見できる可能性は、通常のパスワードよりは高いのではないかと思います。
PC内のファイルとしてメモしていている可能性もあります。もし合法的にPCの中をみることができるのであれば、探してみる価値はあるといえます。
なお、秘密鍵やパスフレーズの保存先として、PC内がよいか、紙で印刷が良いかは一長一短です。PCのウイルス感染の危険からすると、紙で印刷のほうが良いですが、家族等や動産執行で見られる危険からするとPC内のほうが安全です。

NFTの法的検討:クリエイター側視点で

9月 8th, 2022

NFTアートについては、2021年に大きく盛り上がりましたが現在は下火になっているようです。
NFTという方式がデジタルアートに適しているのかは、まだ不明です。ただ、今後、主流な方法になる可能性も十分あるので、それを見据えて検討します。



なお、NFTの法的性質論の前提として も参照ください。



NFT化自体には特殊な効果や意味はない



NFT化するというと、なにか特殊なデジタルな物や権利が発生するようにも思えます。また、メディアであたかもそのように宣伝しているようにみえます。しかし、現状を前提にする限り、そのようなものではないようです。
NFT化するということは、ブロックチェーン上にデジタルアートを登録するということです。
ブロックチェーンは分散型台帳です。NFT化するということは、特定のデジタルアートを台帳に記載するということです。自分の紙のノートやPCに、自分のアートの名前と番号と保存場所url、誰かに譲渡した場合はその相手を記載しておくのと本質的に変わりません。データの保存場所が、自分のPCと違い、
・管理者が分散化されていて特定しにくこと、
・誰でもみることができること、
という点が違うだけです。



なぜ、NFTが特殊なデジタル物や権利であるかのように説明されるのか



ブロックチェーンの大成功例がビットコインです。
ビットコインについても、基本的には送金のやりとりの台帳の記載に過ぎません。
ところが、多くの人がビットコインに価値を認めるに至って、通貨のような価値を持つようになりました。ブロックチェーン上に、特殊なデジタル財産としてのビットコインが生まれたのです。
これは、本来ただの紙切れにすぎない紙幣に、人々が価値を見出すようになったというのと似たような状況です。ブロックチェーン上の記載自体は紙切れに過ぎないといえます。



ただ、すべてのブロックチェーン上の仮想通貨がビットコインのように価値があるものと見ることができるわけではありません。現状、ブロックチェーン上で自分独自の通貨を発行するのは容易ですが、それにビットコインのように価値が発生する可能性は低いです。



NFTについても基本的には紙切れ同様の台帳の記載といえます。あとは、ビットコインのように人々価値を見出すかがです。
そのような中、NFTアートが爆発的な価値をつけ、高額の取引事例が沢山発生しました。となると、ビットコイン同様、なにか特殊な権利であるかのように扱える可能性があるということになります。
ただ、この状況が継続的に続くのかどうかはまだ不明です。



また、NFTにおいては、その発行元となるスマートコントラクトのアドレスが信用の基本となります。誰でもNFTの台帳に記入することできるので、コピー品のNFTの作成も容易だからです。
そこで、あるスマートコントラクトアドレスから発行されているNFTに価値があっても、他のスマートコントラクトから発行されているNFTは全く価値がないということになります。
これはビットコインと、無数の無価値の仮想通貨と同じ関係といえます。もっとも、仮想通貨と違ってNFTの場合は、個々のトークンに個性があるので、同じスマートコントラクトから発行されていても、同じ価値というわけではないという違いがあります。



本来、台帳の記載にすぎないNFTが特殊なデジタル物や権利であるかのように説明されるのは、ビットコインが成功していること、一部のNFTアートの成功によりNFTアートについてもビットコイン同様の成功の可能性があること、が理由といえます。



NFTと各国での著作権法との関係



WEB3.0とかメタバースとかいったことが実現した場合に、大きな影響があるのが各国の法規制です。どこでもない場所において様々な国の人々が集まって取引等をする場合に、特定の国の法律の適用が問題になるのかは興味深いです。
各国の法規制がないことによる不都合もあると思われますが、
・生命身体に対する危険はないこと、
・既存の各国の規制の大半は過去の遺物であって今現在適用することが合理的でなものも多いこと
から,むしろ積極的側面が多いかもと思います。



著作権法でいえば、現在の法規制はアナログ的な印刷録音技術が発達したある時代の状況を前提に成立したものと言えます。
それ以前は、そのような保護はなくても偉大な文学・音楽・絵画は沢山つくられたので、それがないと芸術が保護されないということはないです。
また、現在のデジタルな技術背景からすると、著作権法がどうにもならなくなっていることも明確です。ただ、著作権法による規制を前提にある種の職業が成立し様々な権益が成立している以上、各国において著作権法を抜本的に変えることは難しいのだろうと思います。
ですが、新たに成立したWEB3.0とかメタバース上においては、このようなしがらみのない新しいルールの適用をしたほうがよいのではないかと思います。Web3.0成立以前の権利を無理にWEB3.0上でも確保しようとするのではなく、WEB3.0上でよりクリエイターが活躍しやすいルールをつくったほうがよいのでは、ということです。



NFTの法的権利



NFTというのは台帳の記載にすぎない以上、NFTの法的権利という概念自体に違和感があるといえます。ただ、創った作品をNFT化して、誰かに譲渡した場合に、自分にどのような権利が残り、譲受人にどのような権利があるのかは重要なところです。
しかし、これも何ともいえないということです。もしある程度明確にしたいのであれば、自分でNFTをミントする際に、譲受人にはどのような権利があるのかを決めて伝えたり公示したりする。ということになると思われます。著名なNFTアートのCyptoPunksで





という記事があります。しかし、このように明確にしようとするのは現状では珍しいといえます。下手なことを書いて必要以上に権利を譲受人に与えてしまうリスクもあるので、明確にしたほうが良いとは必ずしもいえません。
譲受人に何の権利がいくのか明確にしていない場合は、日本法だと、一般的にNFTの取引ではどういう権利が移転するのか、とか、売った人や買った人はどういうつもりだったと想定するのが合理的か、を考えることになります。が、前述の通り、日本法解釈にどこまで意味があるのかは疑問です。



なお、日本での楽天やLINE等がやっているプライベート・チェーンでのNFTであれば、規約は当該会社が決めていると思われるので、その内容になるのだろうと思われます。



将来を見据えて何をしておくべきか



今、作り出したキャラクターが、将来、メタバース上で大人気になったとする。そのキャラクターを勝手に売り出して儲けている人もいる。
このような状況下で、キャラクターを創った人に一定の権利が認められるルールが成立する可能性があります。ただ、この場合、そのキャラクターを自分が創ったのだということを、どのように証明するのでしょうか?



現実世界での投稿された雑誌等を材料に判断するということはなさそうな気がします。このような場合に、NFT化しておくと、特定の日に特定のデジタルアートをミントしたということを証明しやすくなると思います。
そして、どのような形でNFT化されているかによって信用性は異なるので、



  • イーサリアムのようなできるだけメジャーなブロックチェーン上で、かつ、
  • できるだけメジャーな方法でNFT化しておくのがよいのではないかと思います


イーサリアムでのNFT化はコストもかかるので、沢山の画像データをNFT化する場合は、PolygonだったりSolanaだったりより安価にNFT化することも考えられます。ただ、10年後なりの将来から振り返ったときの信用性という点では、できるだけメジャーな方が良いので、費用対効果での判断になろうかと思います。
なお、ブロックチェーンの種類(法的問題の前提)も参照



また、NFT化するといっても、画像データ自体はブロックチェーン上のに登録されるわけではないので、画像データの改ざんが容易な場所に保存していると、後に差し替えたのではないかという疑念を払拭できなくなります。
そうなると、何らかのルールや判断の枠組みを作るときに、メジャーなブロックチェーン上でNFT化されていればそれでよいということにはならず、NFT化した場合の画像データの改ざんがないことについて一定の信頼がある方法でのNFT化されていることが肝要となることが予測されます。
できるだけ変更履歴が残り、変更履歴の改ざんも困難な方法で画像データの保管がされていることが重要です(IPFSであれば、これが実現できているのかは、まだ不勉強でよくかってません)。

暗号資産の所得税制改正について

8月 30th, 2022

暗号資産(仮想通貨)の所得税について、分離課税の方向で議論がされるそうです。
 金融庁の「貯蓄から投資」を促す姿勢鮮明に、暗号資産税改正等



基本的には業界団体の要望に沿った形のようです。
 暗号資産税制改正求め金融庁に要望所提出



法人課税については、大問題だったので改正方向はとてもよいと思います。
所得税の分離課税についても、そのほうがよいです。



ただ、所得税については、もっとすべき改正があると思います。現状だと、かたく考えた場合、ブロックチェーンベースのゲームなり、メタバース等を利用すると、ちょっとした操作をするたびに、細く複雑な暗号資産の帳簿をつけなければならないことになります。
まともにやるには煩雑過ぎますので、課税リスクを覚悟しながら適当にやるか、ブロックチェーンベースのゲームなりメタバースはやめておくか、ということになってしまいかねません。
つまり、日本人はWEB3.0はやめておけ、というような状況なわけです。



パブリック・ブロックチェーンベースのゲームなりをするには、何かをするたびに、ガス代等としてイーサリアム等が必要になります。そして、イーサリアムの値動きにあわせて、売却益なり売却損、その上での計算上の単価を出す必要があります。たとえば、

1ETHが20万円のときに、0.5ETHを10万円で購入します。
1ETHが30万円になったときん、ゲームアイテムを0.01ETHで購入します。手数料が0.005ETHかかりました。
このとき、0.015ETH分は20万円から30万円に値上がりした分の売却益が出ますので、1500円の売却益(これは課税される)ということになります。
さらに、1ETHが35万円のときに0.2ETHを購入してETHを補充します。
この場合、手持ちのETHの価額は、20万円の簿価の0.485ETHと、新たに35万円の0.2ETHを加重平均をとって
 (20万円✕0.485+35万円✕0.2)÷(0.485+0.2)というような計算をします。



こういうことを、やり続ける必要があるということです。



エクセルを使えばある程度できますが、そうまでして、ブロックチェーンゲームをしようとは、普通は思わないと思います。



私自身もブロックチェーンに興味をもって色々やりはじめたときは、相場があがり調子だったので、実験的に送金すしたり色々するたびに売却益が発生して税金も発生するような状況でした。でも、ある段階で暴落したので、一気に赤字になって、とりあえず実験段階ではたっぷりの赤字で、今年は税金は発生しなさそうです。私は勉強がてらなので色々帳簿つけもしましたが、まあ、まともにやる気のする作業ではありません。



業界団体なりが、この問題を認識しながら要望として後回しになっているようです。
結局のところ、業界団体も役所も、現状は、暗号資産を本当にWEB3.0的のエッセンス的なものととられているのではなく、投資・投機的手段として考えているに過ぎないといえます。
または、うがった見方をすれば、ブロックチェーンゲームやメタバースにしろ、日本人相手にした閉じたプライベートチェーン的なものを作りたい人を中心に、要望がなされているのではないかという気もします。ガラパゴス的Web3.0を目指す会といったところでしょうか。



さらに、値上がり益を目指すのではなく、定期的な収入を目指すという面ではステーキングがとても重要です。従来、ブロックチェーンはプルーフ・オブ・ワークに基づきマイニングによって支えられていました。しかし環境負荷が大きいことからプルーフ・オブ・ステークが主流になってきています。。これはステーキングといってお金を預けてブロックチェーンの基盤を支えることで、その対価として5%から15%程度の金利的な収入を得るというもので、少額から誰でも参加できます。
ところが、このステーキング、毎日金利が発生するのです。そのため毎日収入の帳簿付けが必要になります(収入だけでなく、仮想通貨の価格変動も毎日チェック)。有料での計算サービス()を利用しないととてもでないとやってられません。ただ、交換所を介さずにダイレクトにステーキングする(これが本来の姿)となると、こういうサービスも利用できないのではないかと思います。
果たして、税金の申告のためにこんな煩雑な事務作業をする必然性があるのが極めて疑問です。日本円に替えたときに所得発生とすれば済む問題ではないかという気がします。
これも、業界団体等を構成する日本の交換所の大半がステーキングサービスを提供していないことから、税制改正で要望されていないのではないかという気がします。



さらに、ブロックチェーン基盤でのWEB3.0のゲームとなれば、ゲーム内で稼いだ通貨が仮想通貨になってきます。昨年あたりから話題になっている。play to earnというものです。その場合、ゲーム内のお金のやりとりすべて帳簿をつけろ、というのが現在の税務上の要求ということです。もう、やってられません。



この問題が難しい理由はいくつでも挙げられると思いますが、WEB3.0が普及しつつある国では、そういう税制になっていないのでしょうから、日本の単にそうすればよいだけです。グローバル化した制度のなかで、そのような調整が必要なのは当たり前で、その気になればよいだけのことと思われます。



仮想通貨(暗号資産)の財産調査(財産分与等)

8月 22nd, 2022

離婚事件や相続事件等で、相手方の財産隠しが疑われる場合、弁護士会や裁判所等の手続きを通じて財産調査をしていくことになります。仮想通貨についても、同様の財産調査が必要になることが想定されますが、銀行預金や証券口座とは調査方法等が異なる部分があるので、そのあたりについて書きます。



仮想通貨の3つの保管場所



仮想通貨の保管場所としては、主に次の3つがあります。



  1. 国内の取引所
    bitFlyer、コインチェック、GMOコイン、DMM Bitcoin、FTX Japan、BITPOINT、LINE BITMAX等
  2. 海外の取引所
    Binance、Bybitl等
  3. ウォレットで管理


3つのそれぞれについて、保管場所の発見方法や口座残高の確認方法等が異なります。



仮想通貨特有の財産調査方法



仮想通貨特有の調査方法として、エクスプローラやスキャンという、ブロックチェーン上の取引を調査するサイトがあります。ブロックチェーン(パブリックチェーン)は、すべての取引履歴は公開されています。それゆえ、アドレスが特定できれば、その取引履歴、現在残高等を調査することができます。



いくつか例を書きます。各サイトごとに見やすさや入手できる情報が異なるようなので、目的とする通貨名+エクスプローラ、目的とする通貨名+スキャン で検索していくつか見てみることをおすすめします。





いくつかの補足事項です。



  • 記載されているのは、あくまでアドレスであり、本人の名前や送金先取引所名が書かれているわけではない。
  • 取引所のアドレスは、他の利用者との共通アドレスのことが多い。本人のアドレスA→取引所のアドレスBへ送金となっている場合。アドレスBの残高が本人の口座残高というわけではない。
  • 大量に取引がなされているアドレスは取引所等、個人のものでない可能性が高い。


仮想通貨:国内の取引所の財産調査



国内の取引所は、仮想通貨の3つの保管場所の中では、銀行預金や証券口座の調査に近いといえます。



仮想通貨:国内の取引所の発見方法



日本円と仮想通貨を交換できるメインルートは国内の取引所です。それゆえ、仮想通貨を保有している人は国内の取引所に口座を可能性が高いです。
国内の取引所の取引所への入出金は、銀行口座を介することが多いです。コンビニ入金等もできますが、手数料が高かったり大きな額の移動には適していないので、銀行口座の取引履歴の分析からの口座発見がまず第一となります。



また別のアドレスがわかっているときには、その送金先のアドレスをエクスプローラやスキャンで調査するとわかることもあります。例:イーサスキャンのComments欄のやりとりでbitflyerの口座らしいことがわかる



その他、メールの内容、2段階認証でのスマートフォンへのメッセージ等を把握できる場合は、そこから見つけることもできるかもしれません。



仮想通貨:国内の取引所への調査事項



国内の取引所は、それ以外の仮想通貨保存場所を探していく起点となります。そこで、その国内取引所での現在の仮想通貨残高だけでなく、その口座への仮想通貨の入出金状況の照会をすることも肝要となります。
入金元や出金先は基本的にはブロックチェーン上のアドレスになります。しかし、最近ではトラベルルールにより出金先の情報の登録を義務付けていることも多いと思われるので、仮想通貨の受取人情報等の取得を求めることが肝要となります。参考:bitflyerでのトラベルルール



というのは、アドレスがわかっても、それが本人の口座なのか、他人なのか、他の取引所なのかといったことの特定は困難になってしまうことが多いですが、受取人情報の記載があれば、その特定が容易になるからです。



仮想通貨:海外の取引所の財産調査



国内の取引所の利用のみだと、仮想通貨の様々な利用をすることが困難なので、Binance等の海外の取引所の口座も持っている場合が多いといえます。
銀行預金だと、日本に支店のない海外銀行の口座を開設することはあまりなく、海外銀行の財産調査は実務上あまり出てきません。しかし、仮想通貨の海外取引所はインターネットで簡単に口座が開設できるので、今後、実務的に問題になる可能性が高いといえます。



仮想通貨:海外取引所の発見方法



送付先のアドレスをもとに上記のエクスプローラやスキャンのサイトを調査すると、Binance等はアドレスにBinanceというタグのようなものがついていてわかることがあります。例:イーサスキャンでのバイナンスのマーク付アドレス
このアドレスは他の利用者との共通アドレスの可能性が高いです。エクスプローラやスキャンで利用履歴や現在残高を確認でき、残額が極めて高額だったり、利用が頻繁だったりすれば共通アドレスの可能性が高いです。
それゆえ、その取引所に口座がある可能性はわかっても残高まではわからない可能性が高いです。



クレジットカードで仮想通貨の購入をしている可能性があるので、カードの明細から判明する可能性もあります。



国内取引所から送金先として、自分の名前での海外取引所として登録されていれば、口座をもっている可能性が高いといえます。



その他、メールの内容、2段階認証でのスマートフォンへのメッセージ等を把握できる場合は、そこから見つけることもできるかもしれません。



仮想通貨:国内の取引所への調査事項



国内の取引所であれば、ある程度絞り込めた段階で、弁護士会経由での照会や裁判所からの調査嘱託によって調査可能ですが、海外取引所については、回答がなされるかどうかの見通しは不明です。



ウォレットで管理している仮想通貨の調査方法



ウォレットは、暗号資産を自ら管理する方法(ただし、取引所のアプリとしてのウォレットもある)で、chrome等のブラウザ、スマートフォンのアプリ、USBにさす形等が多いです。単に秘密鍵をメモしたものをペーパーウォレットと呼ぶこともあります。
基本的には、取引所等の第三者が関与していない場合について、ここで記載します。



仮想通貨:ウォレット管理アドレスの発見方法



国内取引所からの送金先アドレス、エクスプローラ等を利用しての他の本人アドレスからの送金先アドレスとして把握できることが多いです。
本人が使っているウォレットを操作することができれば、そのアドレスを見ることはできます。ウォレットに使っているソフトが判明しても、どこかに照会をしてアドレスを聞き出すということはできません(取引所ウォレットを除く)。



なお、ウォレットは一般的に、既にインストール済みのものを起動するにはパスワード、新たなところにインストールするには、シードフレーズという12語または24語の英単語を利用することが多いです。
相続事件等で、被相続人が暗号資産を管理していたことは分かっているが内容が不明のとき、シードフレーズが判明すれば、相続人全員の同意のもとウォレットを使えるようにでき、アドレス等も把握することができます。シードフレーズは、通常のパスワードと違い暗記は難しいですし、パスワード管理ソフト等にも入れにくいので、どこかにメモが残っている可能性が十分にあるといえます。



仮想通貨:ウォレットアドレスの調査



ウォレット管理暗号資産の特徴としては、本人だけが管理しているので第三者への照会という手法を利用できない反面、アドレスが判明すればエクスプローラやスキャンの利用によって、現在残高やすべての取引履歴を把握できるとうことです。ただし、本人の名前等は記載されていないので、当該アドレスを本人のものであることを、エクスプローラ等から特定することは通常できません。





その他仮想通貨調査事項の補足事項



JPYCの発見法法



JPYCという日本円ステーブルコインサービスがあります。
これは暗号資産ではなく前払式支払手段という位置づけとのことです。
ただ、JPYCを購入した上で、sushisuwapというDEX(分散型取引所)を利用すれば、JPYCと仮想通貨を交換できそうです。なので、国内取引所を経由せず、JPYC経由で日本円と仮想通貨を交換することもできそうです。
JPYCでは銀行振込がスタートのようなので、銀行口座の明細から探していくことになります。
その上で、日本国内の業者なので弁護士会経由または裁判所経由での調査をしてくことになろうかと思います。