Archive for the ‘一般民事’ Category

弁護士は、どの程度法律に詳しいのか

金曜日, 11月 25th, 2011
法律に関する国家資格としては、弁護士以外にも、司法書士とか行政書士があり、
税理士も税法という面では法律資格です。
その中でも、弁護士資格は、試験を通るために、要求される法律知識量がとても
多いので、一般には、世間で一番法律に詳しいのは弁護士です
(なお、裁判官も 詳しいですが、資格としては弁護士と同じです)。

では、どの程度、詳しいのでしょうか?

日本の法律全てに精通しているような人は、存在しません。
おそらく、日本の法律の名前だけでも、全部知っている人もいないかもしれません。
いたら、弁護士ではなくクイズマニアかもしれません。

弁護士がよく使う模範六法という六法がありますが、そこに出ている法律全部に精通している
弁護士も多分いません。
全部読んだことがある弁護士も、ほとんどいないと思います。

いわゆる六法と言われる憲法、民法、商法、刑法、刑事訴訟法、民事訴訟法
を暗唱できる人もいないでしょう。
基本の六法に書かれていることを概ね、把握していること、
これが本当は法律資格としては、必要なのでしょうが、
これを出来ている弁護士もほとんどいないと思います。

通常の一般民事といわれる弁護士の仕事は、民法だけ把握していれば、
8割がたの仕事は何とかなります。
その民法で、何がどこら辺に書いてあるのか覚えているけど、
正確な記載は自信ないから、念のため確認しながら仕事する。
私は、だいたいこのレベルかなと思います。

「うわーひでー」と思うかもしれませんが、弁護士間の情報交換や
メーリングリストでの質問をみたり、相手方弁護士の書面をみると
このレベルに達している弁護士も少数派のようです。
「そんな質問するなよ、それは民法のあのあたりに書いてあるだろう」
ということは少なからずあります。

というわけで、弁護士の法律知識というのは、随分、たいしたことないようですね。
でも、弁護士になる人はいわゆる文系的な記憶力等にかけては、
人間の中でも最上位に位置する人のはずです。
そういう人が覚えたり把握できないのですから、法律が人間の能力に比べて
複雑すぎるとしかいいようがないでしょう。
「資格をとった後に継続的に勉強しないからそうなるんだ」と いう意見もありえますが、
多分、六法の内容だけ把握し続けるだけでも、仕事時間よりも勉強時間を
長くするような生活にしないと無理かもしれません。

結局、それでも、何とか回っているということです。
その理由は、前回書いたように、日本の民事司法は
実質的に正しい結論に持っていくことを最優先しますので、
「まず結論ありき 」ということが多いからかもしれません。
法律を逆手にとったトリッキーな手段は通用しないので、
法律知識を増やすことが、勝ちに結びつきにくく、
むしろ実質的な価値判断をいかに説得的に
主張できるかということにエネルギーが向くのかもしれません。
 

判例。判例。

木曜日, 11月 24th, 2011
法律相談をしていて、相談者から判例がどうのこうの、と言われることがあります。
この件について、判例はどうなっているのか?
とか
判例がそうなんているので仕方がないんですかね
とか。

まあ、正直どうでもよいので、「さあ、どうでしょうね」なんて言いますが、
別にごまかしているわけではありません。

だいたいこういう場合に、「判例、判例」なんて言っているのは、
下級審の裁判例、つまり、最高裁判所の判断以外の裁判を言っていることが多いようです。

大事さの順番で言うと、
①一番大事なのは、実質的に結論が妥当かどうか
②次に、法律の条文に書いてあること、最高裁判所が何と言っているか、

で、ずっと劣って
③下級審の裁判所や学者が何を言っているか
というのが私の感覚です。

何といっても①が大事ですが、結論が妥当かどうかは
様々な観点から検討(当方の立場だけでなく、相手の立場、さらにルールとして一般化できるか等)
が必要なので、そのセンスが法律家として一番大事なところだろうと思います。

で、①さえしっかりしていれば、通常は変な結論を導く条文や最高裁判所の判例はあまりないので、
概ね大丈夫ということになります。
仮に、形式的にみて、変な結論になりそうな場合は、法律解釈で妥当な結論に持っていくというのが
通常のあり方です(そういう意味で、漫画チックな法律の抜け穴というものはほとんどありません)
でも、たまに①で妥当と思ったことに反する法律や最高裁判所の判例があったりすることもあり、
その場合に、①の考えが本当に正しかったのかと、再度、考えることになります。

で、依頼を受けた件等で、念入りに検討する必要があるときに、
③の下級審の裁判例を利用して、検討した価値判断に漏れがないかチェックする。
という感じでしょうか。

実際、裁判の場では、下級審の裁判例を裁判官に見せたところで、
その裁判官が違う考えであれば、
「私はそういう考えをしませんから」
「まあ、色々な考えがある点ですからね」
と言う程度の扱いのことが多いです。
もちろん、裁判官も色々な方がいますから、他の裁判官の判断を参考にしたがる
人もいますが、少数派の気がします。

下級審の裁判例調査を重視するかのように思われてしまうのは、
日本の裁判経験が少ない国際派弁護士がアメリカ流で判例調査が弁護士の仕事であるかのように吹聴しているからか?
ホームページの情報を出すネタとして、裁判例紹介が楽だからか?
情報収集が好きな人が、自分の存在価値を高めるために、こういう裁判例を知らないようじゃ弁護士失格だね!
何て言っているからか?

よく分かりません。

私自身は、事件の見通しをお話しする上では、①の実質的に妥当だという結論を
自分がどの程度の確率で裁判官を説得する自信があるか、とい観点で決めていることが多いです。
大半の裁判官を説得できるかな、
半分位の裁判官なら分かってくれるかな、
頑張れば柔軟な考えの裁判官なら分かってくれるかも
なんて具合です。

なお、裁判例不勉強の言い訳で書いているわけではありません。
しっかり下級審裁判例も勉強しています。
でも、それは「こういう裁判例がある」という知識を出すためではなく、
①の感覚をブラッシュアップするためです。

契約書の題名

金曜日, 9月 16th, 2011
約束事を書面にするとしても,通常は約束事以外のことも書きます。
書面の題名,日付,当事者の署名等です。

今日は契約書の題名について書きます。
契約書の題名は,日付や当事者の署名に比べると
重要性は低いです。
極端な話,なくても決定的ではないです。

でも,実際書面を作るとなると,一番はじめに書くので
「いったいなんと書けばよいのか」と真っ先に,気になって
聞きたくなる部分です。

通常は,契約書,○○契約書,合意書,念書,覚え書
なんて書きますが,どの表題を使ってもそれほど差はありません。

ですから,面倒な場合は契約書と書いておけばあまり間違いはありません。

意味があるとしたら,書面の全体的な信用性に影響が出ることがあるということです。

たとえば,何も題名がなく,契約内容だけが書いてある場合
「これは,正式な契約ではなく,草稿にすぎない。だから,題名がないんだ」
とかいう言い分がでかねません。
もちろん,そのような言い分が通るかどうかは,他の諸々の事情次第ですが,
いずれにしろ,せっかく書面にしたのに,ゴタゴタするのではがっかりです。

そういう意味では,題名は書いておいた方がよいことはよいです。

契約書の要否

水曜日, 9月 14th, 2011
「約束したけど,守るつもりはない」とは言わせないのが,
契約のルールだと言いました。

でも,実際に多いのはむしろ「そんな約束をした覚えはない」
という話です。

法律上は,約束は口約束でも契約書にしても,「約束は守らなければならない」
ということで一緒なのですが,「そんな約束はした覚えはない」
と言わせないための証拠として,契約書が大切になってきます。

証拠に使うという面では,紙切れにでも書いておけば,
弁護士に頼んで契約書を作ってもらう場合や,
公正証書で契約した場合と,本来は一緒です。

でも,実際の裁判の場だと,本人同士で作った
約束事等が書いてある書面は,なんだかんだ
理屈をつけて効力が否定されてしまうことも
少なくありません。

実際のところ,ただの個人同士でわざわざ
約束事を書面にすることはマレなのに
書面ができているということは
どちらかが一方的に強かったのではないかとか
何かごまかしがあったのではないか
動転していて真意ではないのではないか
とか,裁判官はみているようです。

でも,そもそも書面がなかったら,
「そんな約束をした覚えはない」
と言われてしまったら,難しくなることが多いです。
今の民事の裁判では,書面がないと立証したことには
ならない面があるからです。

つまり書面がないと立証が難しい。
書面があっても,素人書面だと効力が認められないこともある

というのが実情です。

『交通事故法律ガイド~横浜の弁護士』

金曜日, 9月 9th, 2011
当事務所では,
①わかりやすいこと
②内容が充実していること
をコンセプトに,昨年7月に離婚法律ガイド,今年1月に相続法律ガイド
という専門サイトを作成し,とても好評なようです。

このたび,同くわかりやすさと,内容の充実にこだわった
『交通事故法律ガイド~横浜の弁護士』
が完成しました。

交通事故のサイトについては,離婚や相続に比べて充実したサイトも多いようです。
そこで,交通事故法律ガイドでは,
最近多い自転車事故の問題や,難しい問題も多い無保険車との事故の問題
刑事責任に関する問題や,過失がある場合の本人負担と保険負担の割合等
他の交通事故サイトでは,あまり解説されていない問題についても
意識して説明するようにしてみました。

当事務所での交通事故事件に対するスタンスは
脱マニュアル主義です。

交通事故については,いわゆる赤い本等のマニュアル類が充実しており
あまり慣れていない弁護士でも一通りのことができるようになっています。

しかし反面で,そのようなマニュアルを絶対視したり,
またはマニュアルを超えたことをするのを面倒がったりする
悪弊も同時にみられます。

もちろん,当事務所も実際の実務の運用をふまえて
交渉・訴訟をします。それが最適なことが多いからです。
でも,マニュアル通りの結論では納得いかないという場合,
実務の運用根拠をふまえた上で,個別の事案に即した
最適な解決を目指すよう心がけています。

もし,当事務所以外の法律相談で,赤い本や青い本や緑の本を
片手に持った弁護士から,「それは難しいですね」と言われて
納得できない場合,一度,当事務所に相談してみてください。

同じように「それは難しいですね」という答えになるかも知れませんが,
単にマニュアルからすると難しいというのではなく,マニュアルから
離れて考えても難しいかどうかも検討した上で,見通しをお話ししたいと思います。

無効になる契約

木曜日, 9月 8th, 2011
前回,「万引きをする」というような違法な約束は無効になると書きました。
違法というのは,万引きのように犯罪になる場合だけでなく,
民事の規定上,無効になる場合もあります。
たいていは,弱者保護という観点から決められています。

契約自由と言って,基本的にはどんな約束をしようが自由で
約束した以上は,国家権力が約束を守らせるという
ルールなのですが,強い立場の人が弱い立場の人に
一方的に不利な契約を押しつけて,
ひどい目に会う人が出てきてしまう場合があります。
そこで,あらかじめ,こういう約束は無効だよと決めておいてあります。

典型的なのは利息の上限です。
契約自由の建前からすれば,10日で2割というような
高額の利息の約束でも守らなければなりません。

そして,お金に困っている人は,思わず目の前のお金欲しさ
にそのような高額の利息の約束をしてしまいがちです。

そこで,利息制限法という法律で,利息の上限を決めて,
高額の利息の約束をしても無効ということにしています。
つまり,利息制限法を超える高利の約束をしても,
裁判所はそんな金利は認めませんということです。

なお,10日で2割というような法外な高利は,
そもそもまともな貸し付けでないとして,元金の返済義務
がなくなることもあります。
そのほかにも,借地借家法や消費者契約法で
弱者を保護するために,借家人や消費者側に不利な
一定の約束は無効になるようになっています。

無理な契約・違法な契約

火曜日, 9月 6th, 2011
「約束を守らない」とは言わせない,国が強制力を使って守らせる
というのが約束・契約に関する法律の仕組みと書きました。

ただ,もちろん例外があります。

「この石ころを金塊にしてみせる」と約束しても,
そんなことは無理な約束です。
ですから,そのような契約は不可能を目的とする契約として無効になります。
法的措置をとっても,石ころを金塊にする約束を守らせることはできません。

もっとも,それが詐欺話だった場合は,別途損害賠償等はできるでしょう。

また,「万引きしてきます」という違法目的の約束も無効です。
国家権力が違法な約束を強制的に守らせるというのは変な話です。
ですから,そのような約束に強制力はなく,
「約束したけど,守りません」と言っても,特に問題がないことになります。

仮に,「約束したのだから万引きしろ」とうるさく要求してきて困り果てて
弁護士に相談した場合,弁護士は
「そのような違法な約束は法的に無効であり, 守る義務はありません」
と回答することになります。

契約とは?

月曜日, 9月 5th, 2011
法律用語で,契約というのはとても大事な概念です。

でも,その意味するところは,約束と概ね同じです。
「契約を守れ」というのと「約束を守れ」というのは
だいたい,同じです。

よく弁護士の文書や何かで,法的措置云々と書きますが,
要は,裁判所の力を使って,無理矢理でも実行するぞ
ということです。

そんなわけで,約束・契約も,法的措置によって強制できる,
つまり,国家権力である裁判所の力で強制的に守らせることができます。

「確かに約束したけど,守るつもりはない」ということを許容しない
これを国が保証しているということです。

しばらく,そんな契約に関することを書いていこうと思います。

空き家を被災者に提供する

水曜日, 3月 30th, 2011
仕事の関係で、空き家を所有している話はよく出てきます。

亡くなった両親の自宅がそのままで、というような場合が典型です。

そのような方は、短い期間であれば被災者に貸してあげようかと思っている方もいるのではないかと思います。

でも、半面で、どのような人か分からないし、居座られたりしたら困るので、いまひとつ踏み出せないこともあると思います。

このような場合は、期間の定めをした使用貸借契約書を交わしておくのがよいでしょう。

そうすれば、決められた期間(たとえば3ヶ月)を過ぎれば、通常は、出て行ってもらうことができます。

もし、延長の必要があれば、再度、契約をすればいいのです。

よく、貸したら返ってこないと言われます。ただ、それは借地借家法の保護を受ける場合、つまり家賃を受け取る場合です。

家賃を一切受け取らない、使用貸借契約で、期間を区切っておけば、大丈夫です。

もし、使用上の注意事項や守ってほしいことがあったら、そのルールも契約書に書いておくとよいと思います。

しっかり作ると、色々ありますが、最低限、以下のように書いておけば大丈夫です。

使用貸借契約

1.甲は、乙に、AA市BB町1-1所在の建物を無償で貸す。

2.期間は、平成23年6月末日までとする。

甲 山田太郎 印

乙 田中次郎 印

 
 

震災による休業や遅刻と給料との関係

土曜日, 3月 19th, 2011
震災による計画停電や電車の運行停止等によって、首都圏の会社の勤務状況についても影響がでています。

そのような中、厚生労働省が平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(第1版)として、

計画停電等で業務を休止した場合の給料の扱いについて公表しました。

基本的には、働いていない分は給料は支払わなくてよいということです。

法律上の整理としては、雇い主が給料支払い義務を負い、労働者が働く義務を負うという労働契約において

労働者の働く義務が、どちらのせいでもなく、はたせなくなった場合に、雇い主の給料支払い義務はどうなるか

という問題です。

結論としては、給料の支払い義務も消滅します。

これをノーワークノーペイの原則といったりします。

労働者側からすれば、自分が悪いわけではないのに、給料がでない!ということになりますが、

働いていない以上、給料はでないということになります。

会社側からすると、休業によって売り上げが上がらないのに、給料だけ出て行ったらつぶれてしまうからです。

今回のQ&Aは計画停電による休業について書いていますが、電車の運行停止によって始業に間に合わなくなってしまった場合も

基本的にはノーワークノーペイで、遅刻ぶんの給料はでないことになります。

今回の状況の中で、実際には柔軟に対応しているところが多いとは思いますが、法律上の建前ではこうなっています。