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感想:万物の黎明~人類史を根本からくつがえす~

金曜日, 5月 31st, 2024

最近、何かが劣化したのか、どうにもこのブログを書いていて冴えがない。
そこで、安易に本の感想を足場にしてみようという試み。



万物の黎明~人類史を根本からくつがえす~



書いてあるとされる内容については、中々面白い。
人間社会は狩猟採集をしているときは平等であったが、農耕をはじめ、都市が形成されるにしたがって社会が複雑化し、富の蓄積、統治機構の整備によって貧富の差や身分の差が生まれていった。
という一般的な考えは、考古学・人類学的な研究からすると出鱈目である。
というあたり。



ただし、まず文章が(尋常でなく)わかりにくい。原文のせいなのか、翻訳のせいなのか(おそらく前者のせいで、まともな翻訳が困難なのかなと推測)、文章の理解が困難。国語問題の題材にされ、傍線部の「それ」が指すものはなにか、なんて問題をだされたときには、固まってしまう。なので、文章の自体をしっかり把握するというよりは、大方全体的な意味を推し量りながら読み進めるという読み方をするしかない。
ちょうどこの本を読んでいる時期に、弁護士会新聞の校正の会議があって、「この原稿は意味がわからない。直さなきゃ」なんてやってましたが、この本を解読するモードになっていた私にとっては十分にわかりやす文章でした。



さらに、主張を論証するには認知機能に問題がある感じ。文系学者だとたまにあるパターン。ある章で何らかの可能性が示唆されていたとしたら、次の章ではそれは証明された事実として扱われているような感じ。
ということで主張的な部分はほとんど説得力はない。もっとも上記のような読み方をしていたので、もしかしたらしっかり論証されていることに気が付かなかった可能性もあり



が、提示されている事実は興味深いものが多いことは事実。論理的にみれば「すべて〇〇は〇〇である」ということを反証するには、それに当てはまらない事実を一つ提示すればよくてごちゃごちゃ論証する必要ない。ということで、極めて平等な都市遺跡があった、なんて事実の提示はとても興味深い。
また啓蒙思想はアメリカ先住民の自由な社会との接触により刺激から生まれてきたというのも面白い。



ある種の専制的な王は周囲の人の世話をしたいという欲求により生み出されたという話も示唆に富む(ただし、本当にそのようなことが書いてあったのか、書いてあったとして根拠があるのか推測なのかも曖昧な印象だが)。
私の思いつきとしては、日本人的な宗教感覚はこの世話をしたいという欲求と親和性がある気がする(地蔵の服をせっせと変えたり、仏壇のお供え物をしたり)。動物との関わりも当然実利的なものだけでなく、世話をしたい欲求があるだろう。つまり、政治的なもの、宗教的なもの、その他諸々の人類史において、敵を倒す、秩序を乱すものを排除する、食料確保の要求を満たす、見栄を張る等の典型的な要因以外に、世話をしたい欲求というのも大きな重要性を持っているのではないかという気がする。そして、本書で(ほぼ根拠を示さずに)ちょこちょこ示唆する女性の先史時代におけるイノベーティブな役割については、この世話をする欲求という観点から再構成するともう少し方向性が出てくるのではないかという気がした。



大著(つまり長い)である上に読みにくいので2ヶ月以上とられた気がしますが、なんとか読み終わりました。