Archive for 8月, 2022

暗号資産の所得税制改正について

火曜日, 8月 30th, 2022

暗号資産(仮想通貨)の所得税について、分離課税の方向で議論がされるそうです。
 金融庁の「貯蓄から投資」を促す姿勢鮮明に、暗号資産税改正等



基本的には業界団体の要望に沿った形のようです。
 暗号資産税制改正求め金融庁に要望所提出



法人課税については、大問題だったので改正方向はとてもよいと思います。
所得税の分離課税についても、そのほうがよいです。



ただ、所得税については、もっとすべき改正があると思います。現状だと、かたく考えた場合、ブロックチェーンベースのゲームなり、メタバース等を利用すると、ちょっとした操作をするたびに、細く複雑な暗号資産の帳簿をつけなければならないことになります。
まともにやるには煩雑過ぎますので、課税リスクを覚悟しながら適当にやるか、ブロックチェーンベースのゲームなりメタバースはやめておくか、ということになってしまいかねません。
つまり、日本人はWEB3.0はやめておけ、というような状況なわけです。



パブリック・ブロックチェーンベースのゲームなりをするには、何かをするたびに、ガス代等としてイーサリアム等が必要になります。そして、イーサリアムの値動きにあわせて、売却益なり売却損、その上での計算上の単価を出す必要があります。たとえば、

1ETHが20万円のときに、0.5ETHを10万円で購入します。
1ETHが30万円になったときん、ゲームアイテムを0.01ETHで購入します。手数料が0.005ETHかかりました。
このとき、0.015ETH分は20万円から30万円に値上がりした分の売却益が出ますので、1500円の売却益(これは課税される)ということになります。
さらに、1ETHが35万円のときに0.2ETHを購入してETHを補充します。
この場合、手持ちのETHの価額は、20万円の簿価の0.485ETHと、新たに35万円の0.2ETHを加重平均をとって
 (20万円✕0.485+35万円✕0.2)÷(0.485+0.2)というような計算をします。



こういうことを、やり続ける必要があるということです。



エクセルを使えばある程度できますが、そうまでして、ブロックチェーンゲームをしようとは、普通は思わないと思います。



私自身もブロックチェーンに興味をもって色々やりはじめたときは、相場があがり調子だったので、実験的に送金すしたり色々するたびに売却益が発生して税金も発生するような状況でした。でも、ある段階で暴落したので、一気に赤字になって、とりあえず実験段階ではたっぷりの赤字で、今年は税金は発生しなさそうです。私は勉強がてらなので色々帳簿つけもしましたが、まあ、まともにやる気のする作業ではありません。



業界団体なりが、この問題を認識しながら要望として後回しになっているようです。
結局のところ、業界団体も役所も、現状は、暗号資産を本当にWEB3.0的のエッセンス的なものととられているのではなく、投資・投機的手段として考えているに過ぎないといえます。
または、うがった見方をすれば、ブロックチェーンゲームやメタバースにしろ、日本人相手にした閉じたプライベートチェーン的なものを作りたい人を中心に、要望がなされているのではないかという気もします。ガラパゴス的Web3.0を目指す会といったところでしょうか。



さらに、値上がり益を目指すのではなく、定期的な収入を目指すという面ではステーキングがとても重要です。従来、ブロックチェーンはプルーフ・オブ・ワークに基づきマイニングによって支えられていました。しかし環境負荷が大きいことからプルーフ・オブ・ステークが主流になってきています。。これはステーキングといってお金を預けてブロックチェーンの基盤を支えることで、その対価として5%から15%程度の金利的な収入を得るというもので、少額から誰でも参加できます。
ところが、このステーキング、毎日金利が発生するのです。そのため毎日収入の帳簿付けが必要になります(収入だけでなく、仮想通貨の価格変動も毎日チェック)。有料での計算サービス()を利用しないととてもでないとやってられません。ただ、交換所を介さずにダイレクトにステーキングする(これが本来の姿)となると、こういうサービスも利用できないのではないかと思います。
果たして、税金の申告のためにこんな煩雑な事務作業をする必然性があるのが極めて疑問です。日本円に替えたときに所得発生とすれば済む問題ではないかという気がします。
これも、業界団体等を構成する日本の交換所の大半がステーキングサービスを提供していないことから、税制改正で要望されていないのではないかという気がします。



さらに、ブロックチェーン基盤でのWEB3.0のゲームとなれば、ゲーム内で稼いだ通貨が仮想通貨になってきます。昨年あたりから話題になっている。play to earnというものです。その場合、ゲーム内のお金のやりとりすべて帳簿をつけろ、というのが現在の税務上の要求ということです。もう、やってられません。



この問題が難しい理由はいくつでも挙げられると思いますが、WEB3.0が普及しつつある国では、そういう税制になっていないのでしょうから、日本の単にそうすればよいだけです。グローバル化した制度のなかで、そのような調整が必要なのは当たり前で、その気になればよいだけのことと思われます。



仮想通貨(暗号資産)の財産調査(財産分与等)

月曜日, 8月 22nd, 2022

離婚事件や相続事件等で、相手方の財産隠しが疑われる場合、弁護士会や裁判所等の手続きを通じて財産調査をしていくことになります。仮想通貨についても、同様の財産調査が必要になることが想定されますが、銀行預金や証券口座とは調査方法等が異なる部分があるので、そのあたりについて書きます。



仮想通貨の3つの保管場所



仮想通貨の保管場所としては、主に次の3つがあります。



  1. 国内の取引所
    bitFlyer、コインチェック、GMOコイン、DMM Bitcoin、FTX Japan、BITPOINT、LINE BITMAX等
  2. 海外の取引所
    Binance、Bybitl等
  3. ウォレットで管理


3つのそれぞれについて、保管場所の発見方法や口座残高の確認方法等が異なります。



仮想通貨特有の財産調査方法



仮想通貨特有の調査方法として、エクスプローラやスキャンという、ブロックチェーン上の取引を調査するサイトがあります。ブロックチェーン(パブリックチェーン)は、すべての取引履歴は公開されています。それゆえ、アドレスが特定できれば、その取引履歴、現在残高等を調査することができます。



いくつか例を書きます。各サイトごとに見やすさや入手できる情報が異なるようなので、目的とする通貨名+エクスプローラ、目的とする通貨名+スキャン で検索していくつか見てみることをおすすめします。





いくつかの補足事項です。



  • 記載されているのは、あくまでアドレスであり、本人の名前や送金先取引所名が書かれているわけではない。
  • 取引所のアドレスは、他の利用者との共通アドレスのことが多い。本人のアドレスA→取引所のアドレスBへ送金となっている場合。アドレスBの残高が本人の口座残高というわけではない。
  • 大量に取引がなされているアドレスは取引所等、個人のものでない可能性が高い。


仮想通貨:国内の取引所の財産調査



国内の取引所は、仮想通貨の3つの保管場所の中では、銀行預金や証券口座の調査に近いといえます。



仮想通貨:国内の取引所の発見方法



日本円と仮想通貨を交換できるメインルートは国内の取引所です。それゆえ、仮想通貨を保有している人は国内の取引所に口座を可能性が高いです。
国内の取引所の取引所への入出金は、銀行口座を介することが多いです。コンビニ入金等もできますが、手数料が高かったり大きな額の移動には適していないので、銀行口座の取引履歴の分析からの口座発見がまず第一となります。



また別のアドレスがわかっているときには、その送金先のアドレスをエクスプローラやスキャンで調査するとわかることもあります。例:イーサスキャンのComments欄のやりとりでbitflyerの口座らしいことがわかる



その他、メールの内容、2段階認証でのスマートフォンへのメッセージ等を把握できる場合は、そこから見つけることもできるかもしれません。



仮想通貨:国内の取引所への調査事項



国内の取引所は、それ以外の仮想通貨保存場所を探していく起点となります。そこで、その国内取引所での現在の仮想通貨残高だけでなく、その口座への仮想通貨の入出金状況の照会をすることも肝要となります。
入金元や出金先は基本的にはブロックチェーン上のアドレスになります。しかし、最近ではトラベルルールにより出金先の情報の登録を義務付けていることも多いと思われるので、仮想通貨の受取人情報等の取得を求めることが肝要となります。参考:bitflyerでのトラベルルール



というのは、アドレスがわかっても、それが本人の口座なのか、他人なのか、他の取引所なのかといったことの特定は困難になってしまうことが多いですが、受取人情報の記載があれば、その特定が容易になるからです。



仮想通貨:海外の取引所の財産調査



国内の取引所の利用のみだと、仮想通貨の様々な利用をすることが困難なので、Binance等の海外の取引所の口座も持っている場合が多いといえます。
銀行預金だと、日本に支店のない海外銀行の口座を開設することはあまりなく、海外銀行の財産調査は実務上あまり出てきません。しかし、仮想通貨の海外取引所はインターネットで簡単に口座が開設できるので、今後、実務的に問題になる可能性が高いといえます。



仮想通貨:海外取引所の発見方法



送付先のアドレスをもとに上記のエクスプローラやスキャンのサイトを調査すると、Binance等はアドレスにBinanceというタグのようなものがついていてわかることがあります。例:イーサスキャンでのバイナンスのマーク付アドレス
このアドレスは他の利用者との共通アドレスの可能性が高いです。エクスプローラやスキャンで利用履歴や現在残高を確認でき、残額が極めて高額だったり、利用が頻繁だったりすれば共通アドレスの可能性が高いです。
それゆえ、その取引所に口座がある可能性はわかっても残高まではわからない可能性が高いです。



クレジットカードで仮想通貨の購入をしている可能性があるので、カードの明細から判明する可能性もあります。



国内取引所から送金先として、自分の名前での海外取引所として登録されていれば、口座をもっている可能性が高いといえます。



その他、メールの内容、2段階認証でのスマートフォンへのメッセージ等を把握できる場合は、そこから見つけることもできるかもしれません。



仮想通貨:国内の取引所への調査事項



国内の取引所であれば、ある程度絞り込めた段階で、弁護士会経由での照会や裁判所からの調査嘱託によって調査可能ですが、海外取引所については、回答がなされるかどうかの見通しは不明です。



ウォレットで管理している仮想通貨の調査方法



ウォレットは、暗号資産を自ら管理する方法(ただし、取引所のアプリとしてのウォレットもある)で、chrome等のブラウザ、スマートフォンのアプリ、USBにさす形等が多いです。単に秘密鍵をメモしたものをペーパーウォレットと呼ぶこともあります。
基本的には、取引所等の第三者が関与していない場合について、ここで記載します。



仮想通貨:ウォレット管理アドレスの発見方法



国内取引所からの送金先アドレス、エクスプローラ等を利用しての他の本人アドレスからの送金先アドレスとして把握できることが多いです。
本人が使っているウォレットを操作することができれば、そのアドレスを見ることはできます。ウォレットに使っているソフトが判明しても、どこかに照会をしてアドレスを聞き出すということはできません(取引所ウォレットを除く)。



なお、ウォレットは一般的に、既にインストール済みのものを起動するにはパスワード、新たなところにインストールするには、シードフレーズという12語または24語の英単語を利用することが多いです。
相続事件等で、被相続人が暗号資産を管理していたことは分かっているが内容が不明のとき、シードフレーズが判明すれば、相続人全員の同意のもとウォレットを使えるようにでき、アドレス等も把握することができます。シードフレーズは、通常のパスワードと違い暗記は難しいですし、パスワード管理ソフト等にも入れにくいので、どこかにメモが残っている可能性が十分にあるといえます。



仮想通貨:ウォレットアドレスの調査



ウォレット管理暗号資産の特徴としては、本人だけが管理しているので第三者への照会という手法を利用できない反面、アドレスが判明すればエクスプローラやスキャンの利用によって、現在残高やすべての取引履歴を把握できるとうことです。ただし、本人の名前等は記載されていないので、当該アドレスを本人のものであることを、エクスプローラ等から特定することは通常できません。





その他仮想通貨調査事項の補足事項



JPYCの発見法法



JPYCという日本円ステーブルコインサービスがあります。
これは暗号資産ではなく前払式支払手段という位置づけとのことです。
ただ、JPYCを購入した上で、sushisuwapというDEX(分散型取引所)を利用すれば、JPYCと仮想通貨を交換できそうです。なので、国内取引所を経由せず、JPYC経由で日本円と仮想通貨を交換することもできそうです。
JPYCでは銀行振込がスタートのようなので、銀行口座の明細から探していくことになります。
その上で、日本国内の業者なので弁護士会経由または裁判所経由での調査をしてくことになろうかと思います。

仮想通貨(暗号資産)の相続手続

火曜日, 8月 16th, 2022

仮想通貨の保管方法としては、国内の取引所、海外の取引所、自らのウォレットでの管理の3通りがある。相続手続はそれぞれで大きく異なる。



国内の仮想通貨取引所での相続手続



bitFlyer、コインチェック、GMOコイン、DMM Bitcoin、FTX Japan、BITPOINT、LINE BITMAX等の国内の仮想通貨取引所での相続手続は、国内で銀行口座や証券口座を持っている場合と大きく異なることはなく、海外取引所やウォレット管理にに比べると容易である。



国内の取引所



その取引所に契約者が亡くなった旨の連絡をする。
取引所の指示に従って、戸籍謄本類や相続人が署名押印すべき書類を用意し提出する



という流れになる。



取引している取引所が不明な場合



亡くなった人のメールをみることができる状況であれば、メールに手かがりがある可能性が高い。
また、取引所への入出金は銀行口座から行うことが多いので、銀行口座の入出金履歴に手がかりがあることも多い。
仮想通貨の取引をしていたと思われるが、どの取引所と取引しているか不明な場合は、各取引所に個別に照会して確認する



生前の対策(仮想通貨の相続)



遺言書を作成する場合には、取引所の名前を明示する。遺言書を作成しない場合でも、どこの取引所と取引していたかを遺された人が把握しやすいようにしたおいたほうがよい。
なお、後述の通り、海外の取引所や自らのウォレットに仮想通貨がある場合、相続手続きが困難だったり、不可能になる可能性がある。万が一の可能性がある場合は、できる限り国内の取引所に保管したほうがよい。



海外の仮想通貨取引所での相続手続



バイナンス等の海外の仮想通貨取引所の口座開設の必要性



現状、国内の取引所では購入できる仮想通貨の種類やできることが著しく限られている。たとえば、
・ブロックチェーン上のゲーム等をする場合に必須のネイティブトークンが入手できない。
・ステーキングや流動性供給のような、仮想通貨の基盤を維持に協力することによってインカムゲインを得る手段がない
等という状況である(2022年8月現在)。
そこで、仮想通貨の値上がり益だけを期待するのであれば国内の取引所だけでよいが、より具体的な仮想通貨の有用性に踏み込んでいこうとすると海外の取引所で口座開設をせざるをえない実情がある。
海外の取引所での口座開設というと、よりハイリスクハイリターンな仮想通貨を購入して儲けることを期待してるように思えるが(そういう方も少なからずいるとはいえ)、実際にはむしろ逆と言える。



日本に支店のない海外の銀行に口座を開設することもできますが、そのような事案はレアであり、従来はあまり問題になりにくかった。
しかし、仮想通貨の海外取引所については、インターネットで簡単に口座の開設ができること、上記のように口座を作る必要性があることから、今後、大きく問題になると思われる。



日本法に基づいた手続は期待できない



日本法の枠内での相続手続は預金であれ不動産であれ何であれ、前記国内取引所で記載したように
・戸籍謄本類によって相続人であることを証明する
・相続人全員が手続きに合意していることを示す。
の2つを満たせば、通常はスムーズにすすむ。それでもうまくいかない場合は、日本の裁判所で訴訟手続きをすれば名義変更を強行できる。



しかし、海外の取引所について、このような手続きがスムーズにいく保証はない。日本語を解するスタッフがいる保証もないし、ましてや戸籍や日本法に基づく相続の常識を理解している可能性も低い。
このような状況で、契約者本人が死亡した旨を連絡した場合、口座を凍結された上で、日本では入手不可能な書類を要求される等の展開に発展し、あきらめるか、見通しも不明で高額の費用がかかると見込まれる海外での訴訟手続きをしてみるか、というような究極の選択に陥る可能性がある。



現状で考え得る上策



そこで、次のような手続きをとるのが現在のところ上策と思われる。なお、国内の財産の相続財産については一般的には法律実務上するべきでないとされる方策も含んでいる。なので、国内の財産(国内仮想通貨の取引所を含む)については、このような方法は非推奨である。
また、これどおりにしたからといって手続きスタックしない保証があるわけではない。自分がそのような状況になった場合、考えうる方策というレベルである。



まずは、その海外仮想通貨取引所に対して、誰の件か明らかにせずに、一般論として、日本人が亡くなった場合の相続手続きを尋ねるメール等を送付してみる(英語でのメールになる可能性もあると思われる)。
その結果、日本の戸籍の提出等、日本法に精通していると思われる対応があった場合は、それに乗ればよい。



メールに対する返信がなかったり、要領を得なかったり、日本法上、困難な手続きを要求されていると思われる場合。その海外取引所のログインID,パスワード、連絡メールアドレス、2段階認証の電話番号等のいくつかを把握できているようであれば、相続人全員での合意のもと、適宜手続きをして、相続人の代表が管理する仮想通貨口座に送金する。
なお、この方法は、引き出せなくなるよりマシとの判断でのやや強硬策なので、慎重な判断が必要である。後日、この行為が問題視されたときに、裁判で違法と判断されるリスクがないとは言えない。できるだけ、そのリスクを下げるにはどうしたらよいかは、弁護士への相談をおすすめする。



いずれの方法でもうまくいかない場合に、海外取引所に対して直接、契約者がなくなった旨を伝えて手続きを確認する。



取引している取引所が不明な場合



亡くなった人のメールをみることができる状況であれば、メールに手かがりがある可能性が高い。



海外取引所しか保有していない場合はマレで、通常は国内取引所にも口座がある。というのは、日本円を仮想通貨を換金するには、通常、国内取引所の口座が必要だからである。
そこで国内取引所に対して残高だけでなく、送金先の一覧の開示を求める。そこから海外の取引所が判明する可能性も高い。
また、送金先がアドレスだけの場合は、各種ブロックチェーン・エクスプローラーの類を利用して、調査検討することで海外取引所が判明する可能性もある。
クレジットカードによる入金に対応とするところもあるので、クレジットカードの履歴が手がかりになることもある。



生前の対策(海外の仮想通貨取引所の相続)



生前に、海外の取引所のパスワード等を知らせて置くことは、諸事情から難しい場合が多いと言える。
そこで、たとえばパスワード紛失時にメールアドレスと携帯電話番号が必要なのであれば、万が一のとき、遺された人がそれらを復旧できるかを考えてみる。
たとえば、メールアドレスのパスワードを自分以外知らない場合
携帯電話会社やケーブルテレビ等、本人確認がしっかりしているところで作ったメールアドレスであれば、死亡後の相続手続きによって、遺された人がメールを引き継げる可能性が高い。
逆にgmailのように本人確認がほとんどなくメールアドレスを作成できる場合、遺された人がgoogleに連絡をとっても手続をすすめることは難しいと思われる→メールのパスワードの再設定の場合の手続として自らの携帯電話等を利用できるようにしておく→携帯電話を相続人が相続手続きで利用できれば、メールのパスワード再設定ができるような段取りを考えておく。



ウォレットで仮想通貨を管理している場合の相続手続



ウォレットというのは、自ら仮想通貨を管理する方法である。chrome等のブラウザの拡張機能として利用したり、スマートフォンのアプリとして利用したりするものや、USBに挿して利用するもの等がある。



有名なものとしては、メタマスク(イーサリアム、ポリゴン、バイナンススマートチェーン等に対応、chromeの拡張期のやスマートフォンのアプリとして利用する)phantom(ソラナのウォレット)、ledger(USBに挿して利用する)、Trezor等がある。



ウォレットで管理している場合、誰かに手続きをしてもらうということはできない。なので、パスワードもシードフレーズも不明な場合はどうにもならなくなる。



ウォレットの仕組みとしては、次のようなものが多い。
・既にウォレットが設定済みのブラウザ、PCやスマートフォンで操作する場合は、パスワードがわかれば操作できる。
・新たなブラウザ、PCやスマートフォンに設定する場合は、英単語12個または24個等のシードフレーズというものを利用して設定できる。設定済み端末でパスワードを忘れた場合も同様。



ウォレットがわかっている場合の相続手続き



スマートフォンにメタマスクや phantom がインストールされている。
chromeの拡張機能にメタマスクやphantomがインストールされている。
ledger等のハードウェアウォレットがある



といった場合、ウォレット内に仮想通貨が存在している可能性が高い。
このような場合、パスワードがわかれば仮想通貨を動かすことが出来る可能性が高い。



パスワードがわからない場合は、シードフレーズがどこかに残っていないか探すのも手である。パスワードの場合、使い回しが可能なので、パスワードをどこにもメモしていない可能性もある。その場合、探し出すのは難しい。
しかし、シードフレーズは一方的に設定される。しかも、12個とか24個の英単語なので、どこかにメモしている可能性が高く、探す目的物としても探しやすい。



パスワードもシードフレーズも秘密鍵(※)もわからない場合は、事実上、資金を動かすのは不可能と思われる。



※ウォレットは秘密鍵を管理するツールだが、秘密鍵自体はメモするのもかなり面倒な文字列なので、これを直接把握するのは、コマンドベースで仮想通貨管理している場合等、特殊な場合と思われる。



ウォレットが不明な場合の相続手続き



国内取引所の取引所からの出金履歴や、仮想通貨のエクスプローラー等を調査した結果、いくつかのアドレスについても本人が管理していたのではないかという場合がある。それ以外にも、ウォレットがあるかもしれないし、ないかもしれないという場合がありうる。



そのような場合、次のような調査をすることになる。
・chrome等のブラウザの拡張機能のインストール状況
・スマホのアプリにウォレットがないか
・ledger等のハードウェアウォレットを持っていないか
・PCに仮想通貨を管理するソフトが入っていないか
・シードフレーズと思われる英単語12個・24個等のメモがないか



生前の対策(仮想通貨ウォレットの相続)



ウォレットの相続の生前の対策は、なかなかよい案が思いつかないというのが率直なところである。
シードフレーズをどこかに残しておけば、それを手がかりにウォレットの復旧をできることになるが、逆にシードフレーズを見られたら、ウォレットの仮想通貨を自由に出されてしまうリスクがある。
なので、家族のそういう部分での信用状況と、万が一の際にウォレット財産が引き出し不能になるリスクとの兼ね合いを考えるしかない。
このような状況から、あまり高額な仮想通貨をウォレットで保管することは、少なくとも相続手続きの観点からは推奨しにくい。
高額の仮想通貨をウォレットで保管する必要がある場合は、シードフレーズの一部を家のわかりやすい場所に保管するとともに、残りの一部を誰かに託しておき、万が一の場合に家族に伝えてもらう等の工夫が必要なると思われる。

ブロックチェーンの種類(法的問題の前提)

金曜日, 8月 12th, 2022

ブロックチェーン上の法的問題の検討にあたっては、問題となった仮想通貨なりNFTなりゲームなりDAOなりが、どのブロックチェーンを利用しているのかを把握することが重要です
その他、自らブロックチェーン上のアプリを立ち上げようと考えるとき、仮想通貨やNFTの購入を考えるときも、それぞれのブロックチェーンの特徴は重要な考慮要素となります。



パブリックチェーンかプライベートチェーン・コンソーシアムチェーンか



まずはイーサリアム等のパブリックチェーン上なのか、特定企業の中でのプライベートチェーンや企業グループ等のコンソーシアムチェーンかの区別が重要です。後者の場合、ブロックチェーン特有の法的問題をそれほど考慮せず、従来型の議論の枠組みで考えることができる余地が高いです。



区別の仕方



パブリックチェーンであれば、通常、そのチェーンの利用料としてイーサ(ETH)等のネイティブトークンの利用がガス代として必要となります。そのためにメタマスク等のウォレットの準備が必要となります。



逆にこのような面倒な手続きが必要がなしに、NFT等が購入できるとしたらプライベートチェーン等の可能性が高いといえます。たとえば、ID(メールアドレス等)とパスワードで本人確認した上でクレジットカード等で日本円で購入できる場合です。



なお、パブリックチェーン上の仮想通貨等だとしても、いわゆる取引所(※)で暗号資産を購入した場合はウォレット等は必要なくIDとパスワードでの管理になります。取引所で仮想通貨を保管している限りは、多くの場合、ブロックチェーン特有の法的問題はあまり発生せず、従来型の議論の枠組みで対応できることが多いと思われます。



※コインチェック、ビットフライヤー、ビットバンク、GMOコイン等です。



区別の理由



パブリックチェーンかプライベートチェーンかの区別が重要となる次の理由です。
ブロックチェーンを運営するには相当程度のコストがかかります。
仮想通貨やNFTを移転する際には、ブロックチェーン上に新たな記載をすることになり、そのためのコンピュータの稼働コストが発生します。そのコストを利用者がガス代として支払うのであれば運営者は必ずしも必要ありません。しかし、利用者がコストを支払わないのであれば、運営者がそのコストを支払い続ける必要があるため、運営者の存在が必須になります。運営者が想定されるのであれば、ブロックチェーン特有の議論に入らずに、運営者に対する債権としてとらえる余地が大きくなります。
たとえば、LINE Blockchainでは、NFTを購入した人が、NFT移転する際のガス代が不要です。その反面、運営者にはクラウドサービスのような料金表が提供されています。このサービスにもとづいてNFTサービスを提供している場合、提供者は月額の利用料を支払い続ける必要があります。
これがイーサリアム上のNFTの場合、はじめにNFTを作成(ミント)するときにガス代はかかります。その後はNFTを移転したい人がガス代を負担していくことになります。なので、はじめにNFTを作成した人等の運営者による継続的な費用が必須ではなく、NFTを誰かが提供していると考えることが難しくなります。債権というよりは、ブロックチェーン上の電子的物体に近くなります。



パブリックブロックチェーンの区別



台数による信頼性



ブロックチェーンの信頼性は、ブロックチェーンを構成するコンピュータ(ノード)の台数による部分が大きいです。
多数のノードが存在するビットコインやイーサリアムは信頼性が高いといえます。



仮にスピードが早くて、ガス代が安いブロックチェーンを作り上げたとしても、それを構成するコンピュータが大量に集まってくれていないと信頼性が低くなります。
というのは、ブロックチェーンの信頼性は、コンピュータ等の51%を奪われると損なわれる可能性が高いからです。



ただし、この問題は誰でもノードに加わることができるという特性にもとづいています。誰でも加わることができるので、悪意あるノードが加わるのを防ぐことができないからです。



そこで、BNBチェーン(バイナンススマートチェーン)のように、誰でもノードに加わることとはできないという方式をとっている場合もあります。この場合、ブロックチェーンの信頼性は、このブロックチェーンを提供しているバイナンスの信頼性に依存することになります。



この意味での信頼性の高さは、そのブロックチェーンのネイティブトークンの時価総額である程度把握することができます。時価総額が小さいブロックチェーンは、他の性能が高くても信頼性の点で弱いといえます。



ガス代の安さやスピード



信頼性の点ではイーサリアムに軍配があがります。イーサリアムはガス代が高くちょっとした操作にも相応の金額がかかります。2021年の終わり頃に色々ためした限りだと、送金で何百円、ちょっとした操作で何千円かかる感じでした。これがソラナのブロックチェーンだと送金で1円も手数料がかからないようです。
また、スピード面でもイーサリアムより早いとするものが多くあります。



ネイティブトークンの入手の容易性



イーサリアムを利用するにはイーサ(ETH)、ソラナを利用するにはソラナ(SOL)、バイナンススマートチェーンを利用するにはBNB、ポリゴンを利用するにはMATIC等のネイティブトークンといわれる仮想通貨が必要です。
イーサであれば、日本の取引所でも容易に入手できます。しかし、2022年8月時点で、ソラナやMATICは、ようやく買えるところが一つ2つでてきた程度。BNBは買えるところはなさそうです。こういったものを買うには、日本の取引所から海外の取引所に一旦仮想通貨を送金し、海外の取引所の購入するしかないといえます。
入手困難なネイティブトークンが必要なブロックチェーン上で動くサービスは、日本の顧客には提供しにくくなります。
パブリックブロックチェーンの現状で言うと、入手しやすいが利用料が高すぎて提供が難しいイーサリアムか、料金は安いがネイティブトークンの入手が困難なソラナやBNBといった状況になってしまっています。
日本でのNFTのサービスがパブリックブロックチェーンではなく、プライベートチェーンになりがちな理由の一端はここにあるのかもしれません。



マニュアル等の充実



みずからブロックチェーンを利用して何かサービスを提供しようとする場合、マニュアルやサンプルコードの充実は重要です。その点では、イーサリアムが圧倒しています。
バイナンススマートチェーン等では、イーサリアム互換(EVM互換)ということで、イーサリアムで動くコードを利用できることになっています。イーサリアム互換でないと、開発の難易度は高くなるといえます。



あらたなブロックチェーンが出てきたといったときは、そのブロックチェーンがEVM互換なのかはどうかは、その後利用者を増やせるかどうかについて重要な影響があります。



NFTの法的性質論の前提として

土曜日, 8月 6th, 2022

ブロックチェーン技術の代表的応用例として、昨年あたりからNFTが大きく話題になっています。
ただ、自分なりに理解した限りでは、その大きな売り文句である
「デジタルデータに唯一性を与えることができる」
は、かなり限られた条件下で実現できるだけのようです。
そして、それを前提にすると、それほど法的性質を論ずる価値があるとは言えないのでないかという気もします。そのあたりを書いていきます。



NFTの説明



NFTとは、ノンファンジブルトークンということですが、意味をつかむ助けにはなりません。
現状、ブロックチェーンでのトークンとされる主なものは次の2つです。
・仮想通貨(数えられて、「いくら持っている」ということを考えられる。
・NFT(通貨のように、数えられない。「何をもっている」というようなもの)
データの管理の仕方の単位は、いずれもアドレスです。
仮想通貨であれば
・アドレスA 55,000
・アドレスB 3,000
・アドレスC 0
というように管理されます。
NFTであれば
・アドレスA 1、4、8
・アドレスB 18、23
・アドレスC 何もなし
というように管理されます。
この1,4はIDのようなもので、NFT一つ一つに付与されます。それがどのアドレスに帰属しているかを管理します。そのうえで、典型的な方式としては、このNFTの追加情報を保存するネット上の場所を指定して、そこに
{ “name”: “Thor’s hammer”, →NFTの名前は トールのハンマー
“description”: “Mjölnir, the legendary hammer of the Norse god of thunder.”, NFT説明
“image”: “https://game.example/item-id-8u5h2m.png”, 画像データの保存場所
 ”strength”: 20強さ }
openzepplelinよりというような情報を保存します。つまり、ブロックチェーン上に保存されるのは、アドレスとIDの紐づけと、データ保存場所のurlだけで、実際の画像データはブロックチェーン上に保存されないのが通常です。



なぜ、画像データはブロックチェーン上に保存されないのか



ブロックチェーンの特徴であり利点は、
・何千何万台ものコンピュータに過去の履歴を含めて全データが保存されている。
・これを誰でも利用できる。
というところにあります。なので、ここに画像なり動画なりを保存すれば、何千何万台のコンピュータに永久保存されることになります。そんなことを許してしまったら、あっというまにコンピュータの保存容量がなくなりブロックチェーンが成り立たなくなります。そこで、容量の大きなデータは保存させない工夫が必要となります。その結果として、ブロックチェーン上に画像データの保存は基本的にできないとうことになります。
ただし、ドット絵のように工夫すれば保存容量をとらなくできるものについて、cryptopunksのようにイーサリアム上に画像データも保存している例外もあります。これをフルオンチェーンのNFTと言います。



画像データはブロックチェーンの永続性の対象外



そのような次第で、NFTのにおいて、ブロックチェーンの永続性や改ざん不能性を画像データの付与できているかというと、普通はできないということです。画像の保存場所はブロックチェーン外ですので、ここが改ざんされてしまうリスクはブロックチェーンを使わない場合とあまり変わりません。つまり、このNFT画像は自分のものだと思っていても、自分のアドレスとNFTのIDが永久保存されたとしても、画像が差し替えられてしまうというのはありうるということです。



同じ画像の異なるNFT作成は容易



ある画像がブロックチェーン上で唯一のものであることを担保する手段もありません。ある画像と全く同じ画像が別途NFT化されているのを防ぐ手段はありません。
NFTの作成にあたっては、それを管理するスマートコントラクトが必要でその中で画像データの保存場所も指定されます。その画像データの保存場所をみれば、同じ画像がないかどうかを調べることは(頑張れば)できると思われます。
しかし、別のスマートコントラクトを作って別の保存場所を指定することも容易ですので、そのように無数に立ち上がるスマートコントラクト間で画像の重複を防ぐのは難しいといえます。NFTの作成(ミントという)の日時をみて早いものを本当とみなすというような暗黙ルールが形成される余地はないとはいえませんが、だいぶ「唯一性の永久担保」というものに比べると、ゆるい気がします。



ゲームアイテムならうまくいく



ただオンラインゲームのアイテムをNFT化した場合はうまくいきます。
というのは、正しいスマートコントラクトアドレスで管理されているアイテム出ない限りゲーム内で利用できないからです。偽物が出回り被害者が出る余地はありますが、本物と偽物は明確に区別できます。
ゲームアイテムをパブリックチェーン上でNFT化することで、ゲーム運営会社を介さずに、ゲームアイテムの譲渡が可能になります。



NFTアートの正当性担保には権威が必要



ゲームアイテムでうまくいく理由は、特定のスマートコントラクトアドレスが正当だといえるからです。
なので、アート画像でも特定のスマートコントラクトアドレスで発行されたものが正当なもので、他は偽物だということが言えれば、同様に正当性が担保されることになります。
しかし、ゲームアイテムであれば利用できる・利用できないという明確な基準がありますが、アートの場合は一筋縄ではいきません。
たとえば、特定のアニメキャラクターのように現実世界での権利保有者が明確で、その権利保有者が特定のアドレスでNFTを発行した、という状況であればそのアドレスの正当性は信頼できます。
しかし、無名のアーティスト等が自らの画像を発行するような状況でそのような権威付けを得ることはなかなかイメージをつかみにくいです。やるとしたら、相当程度、現実世界での確認手続き等をした上でということになりそうです。



NFTアートの実現可能性と分散型との乖離



今年になってWEB3.0なんて言葉が出回ります。基本的にはブロックチェーンという分散型システムの中で中央管理者の権利なしにうまくいく世界観を指しています。
ところが、NFTアートに関しては、上記の通りその世界観ではうまくいかなさそうです。現実世界での権威の裏付けがあってはじめてうまくいくような気がします。
日本企業が自ら立ち上げたプライベートチェーンのようなところでNFTを発行するような話を聞いたとき、当初私はそれではブロックチェーンでのNFTとして無意味なのではないかという気がしていました。
しかし、NFTに関していうと、パブリックチェーン上で立ち上げたところで、結局のところ特定企業なりの信頼を前提にしないとうまくいかないとすると、プライベートチェーンでもよいような気がします(※)。
で(このあたりはよくわかってないのですが)、プライベートチェーンでよいのであれば、そもそもブロックチェーンでなくて従来型のサーバーでも同じことができるのではないか。という気もしてきて、NFTアートとブロックチェーンとの関係が乖離していきます。



※パブリックチェーンを使うメリットは、企業がそのNFT事業から撤退しても、NFTは存続するという点と思われます。大昔に発行されたキャラクターのカードが取引され続ける感じのことができるということです。



NFTの法的性質



NFTの法的性質を論じるとき、あたかもパブリックチェーン上で特定の権威の裏付けなしにデジタルデータの唯一性が担保され、ブロックチェーン上での改ざん不能性も実現されることを前提にしているような気がします。
しかし、上記のように、その前提は「どうかな」という気がします。



いずれ、このようなNFTの性質を前提に法的性質について書こうと思います。

スマートコントラクトの私法的性質

水曜日, 8月 3rd, 2022

ブロックチェーンが大きく飛躍するきっかけとなると言われるのがスマートコントラクトです。
ビットコインでは通貨の送金がメインでした。イーサリアムではスマートコントラクトといってコンピュータ・プログラムを利用できるため様々なことができます。様々なことといってもピンとこないので,まずモデル的な説明をします(日本法では違法!と言われそうですが)。
・プログラムなので乱数を発生させて,サイコロを振らせることができます(※)。
・同時に,ブロックチェーンなので仮想通貨のやりとりができます。
→スマートコントラクトに対してお金を預け入れた結果,サイコロの目にあわせて,ハズレだったり,お金が何倍かになって戻ってきたりする,スロットマシーン的な仕組みを実現できる。



より現実的に,現在スマートコントラクトによって実現しているのは次のようなものです。
・別の仮想通貨の作成(ステーブルコイン,ガバナンストークン等)
・NFT(ノンファンジブルトークン→通貨のように量的でないトークン)の作成
・仮想通貨同士の交換→DEX(分散型取引所 uniswap pancakeswap)
・仮想通貨の貸し借り(Defiの一種。compoundが有名)
・DAO(分散型自立組織)



スマートコントラクトの存在は,ビットコインの法的性質以上に,複雑怪奇で面白い法的議論を導きます。
ビットコインの法的性質は,法的な権利の客体の話でしたが,スマートコントラクトは法的な権利の主体の話になってきます。



※実際には,ブロックチェーン上の乱数の発生には様々な問題があります。



スマートコントラクトの構造



イーサリアム上,スマートコントラクトとアドレス,人間(自然人と法人等)との関係は次のようになります。
・仮想通貨の保持,NFTの保持,送金の主体等のイーサリアム利用の単位はアドレスである。
・アドレスは人間が持っている場合と,スマートコントラクトが持っている場合がある。
アドレスを持っているのが人間だけであれば,ビットコイン同様,法的主体についてはあまり問題になることはありません。しかし,どの人間にも帰属していないアドレス,つまりスマートコントラクトのアドレスに仮想通貨が帰属したり,スマートコントラクトのアドレスにお金を送金したり,そこからお金を借りたりできるということにより,法的にどう考えるべきか複雑な問題が発生します。



もう少しスマートコントラクトを説明します。
通常の送金等の指示はブロックチェーン上に「AからBに○送金する」という内容で登録されます。ブロックチェーンを構成する何万・何千のコンピュータに同じ内容が永久保存されます。その集計結果があるアドレスの残高になります。
スマートコントラクトの場合,特定のプログラムがブロックチェーン上に登録(デプロイという)されます。ブロックチェーンを構成する何万・何千のコンピュータに同じ内容のプログラムが永久保存されます。登録(デプロイ)されたときにアドレスが発行されます。そのアドレスを利用して誰でもそのプログラムを呼び出すことができます。



永久保存される→つまり変更ができないということです。はじめに変更できるパラメータを作っておくことはできます。でも,それ以外はできません。仮にバグがあっても修正できないとされています。



プログラムを登録する際には人間がもっているアドレスから行うのが通常なので,その登録をした人間を想定することはできます。しかし,
・ブロックチェーンのプログラムの大半はコピペによるものでありプログラムに個性がないことが多い
・登録した本人も修正はできず,特に権限を設定しなければ,登録した本人はそのスマートコントラクトに対して特別関係があるとは限らない。
ということからすると,常に登録した人がプログラムの管理者とは言い切れないことになりそうです。ビットコインの運営者がサトシナカモトであるとは言えないのと同様な感じと思われます。



スマートコントラクトの管理者とスマートコントラクトとの契約



現状、多くのスマートコントラクトについては、ある程度、発行者・管理者を想定できることが多いです。
ステーブルコインの発行にしても企業体が発行主体であったり、分散化したDAOが運営しているといっても、(法人格の有無はともあれ)人間の集まりを想定することができます。



しかし、例えば、「お金を預けることができ、預けたアドレスが引き出し司令を出すと引き出すことができる」というシンプルで無個性なプログラムを、何らかのボットが自動的にどからかコピーして、ブロックチェーン上に登録(デプロイ)したとします。で、意外にこのスマートコントラクトが重宝されて使う人が出てきたとします。そしてプログラムの変更はできないとします。
このような場合に、スマートコントラクトの管理者を想定することは、かなり無理やりな感じがでてきます。さらに、常にスマートコントラクトの管理者の特定を必要とする法的構成を前提とすると、管理者を特定できない場合は、それ以上は前に進めないということになりかねません。むしろ、スマートコントラクト自体に何らかの法的主体性を認める(「特定のスマートコントラクトに対して仮想通貨を寄託した」という事実主張を法的に意味があるものと扱う)ほうがより有効なのではないかと思われます。
「管理者がいない場合は管理者が運営するものとし、いない場合はスマートコントラクトに主体性を認める」ということも考えられますが、管理者がいないかどうかの把握が困難なことを考えれば、管理者がいる場合も「スマートコントラクトと契約した。そのスマートコントラクトの管理者は〇〇である」という構成を認めたほうがよいのかも、という気もします。



onlyowner



小ネタ的ですが、イーサリアムのスマートコントラクトでよく使われるSolidityという言語の勉強をすると、OnlyOwnerという修飾子の話が比較的はじめのほうに出てきます。これは、指定したアドレスを当該スマートコントラクトのownerに指定して、そのownerアドレスからでないと実行できない関数を指定したりできます。このonlyownerがあるとスマートコントラクトを現在管理していると思われる人間アドレスの存在を追うことができるといえます。
なお、ブロックチェーンのデータは公開されているので、スマートコントラクトのプログラムも公開されています。
とはいえ、一部のプログラムはsolidityのプログラムを公表していますが、それ以外はプログラムの内容を確認するのはそれなりに面倒そうです。



全体像への再考



このように、スマートコントラクトは、法的な主体について再検討を要請する可能性が強いといえます。
ビットコインの法的性質についての議論もこの観点から再検討する必要があるかもしれません。というのも権利客体だけの問題であれば、何らかの法的財産権を認めても良いのではないか、という議論に親近感があります。しかし権利主体まで認めるという話になってくると、全体として法的な権利主体・権利客体とは認めない、という方向にしておいたほうがよいのではないか、ということもありそうだからです。
ブロックチェーンの優れた特徴は国境をまたいだやりとりが容易だということです。インド人が作ったプログラムをブラジル人がブロックチェーン上に登録(デプロイ)し、フランス人と日本人がそこに預けられている仮想通貨(この仮想通貨の発行はフィリピン人)の帰属を争っている。なんて場合に、日本法での位置づけを議論することに意味があるのかは、かなり怪しいといえます。
さらに、ビットコイン上での法的性質の議論がひそかに前提にしているように、どのように日本の法律家が議論したところで、ビットコインのネットワークに対して日本の司法の強制力は無力だということです。判決で、特定の人の権利だと確定したところで、ブロックチェーン上にその内容を強制登録することはできず、ブロックチェーン外で精算するのが精一杯です。これは、日本に限らず、どこの国の司法でも同様です。
では、どうするのだ、というのがブロックチェーンの私法的性質論の本質なのだろうと思います。



仮想通貨の私法的性質

月曜日, 8月 1st, 2022

(法的用語としては、仮想通貨でなく暗号資産だという話もありますが、NFTを含めた暗号資産全体と通貨的なものとは区別したほうがよいことも多いので、通貨的なものを仮想通貨と呼ぶことにします。暗号通貨でも良いのですが)



ビットコインの私法的性質



ビットコインの法的性質は、ある程度調べると各所で論じられています。
概略としては
(前提)
・物でないので所有権を観念できない
・発行者いないので債権でもない
・知的財産権というのも無理がある
なので
・現状の法概念では把握できない。
・財産価値もあるし、排他性もあるので法的に無視できるものではない



(諸説)
ではどう考えるか
・事実状態に過ぎず権利生を否定する説(侵害は不法行為等の対象にはなる)
・権利性は否定するが物権法理を準用する説
・物権又は準物権を認める説
・財産権を認める説
・プログラムに対する合意を根拠



なんてあたりです。詳しくは
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/affiliate/kinpo/kinpo2016_1_2.pdfとか
『金融・商事判例 2021年3月増刊 1611号 暗号資産の法的性質と実務』



ビットコイン以外にも適用できるか?



しかし、上記の議論をブロックチェーンを利用した仮想通貨全般に適用できるか、というと必ずしもそうともいえないと思われます。
どこかの日本の企業(IT企業なり銀行なり)が、ブロックチェーン技術(ただしプライベートチェーン)を使って、あらたな仮想通貨を発行した場合、法的性質としては電子マネーとあまり変わらないことになると思われます。この場合、電子マネーを管理するコンピュータ基盤を従来型のOS+サーバにするか(メインコンピュータとバックアップ)、ブロックチェーンプログラム(何台かのコンピュータを並列に置く)にするかという程度の違いに過ぎず、法的に差異を設ける必要があるとは思えません。
これは一つの極端な場合でありますが、ビットコインも仮想通貨の中ではもう一つの極端な場合であって、その他の仮想通貨はこの中間に位置しているといえます。以下では、法的性質を考えるにあたり重要と思われるファクターを見ていきます。



チェーンの公開性の程度



ビットコインが管理者不在で公開されているという場合、次のようにいくつかの側面があります。



  1. データが公開されていること
  2. 誰でも、許可不要で必要なアドレスを取得し、送金等ができること
  3. 誰でも、ブロックチェーンを構成するコンピュータ(ノード)になれること


まず、どこかの企業が自前のブロックチェーン(プライベートチェーン)を利用する場合、この3つのいずれも満たしていないことが多いといえます。企業の集まりが、コンソーシアムチェーンを作る場合も、その企業内ではこの3つを満たしますが、その外側に対してはいずれも満たしていないということになります。なので、ビットコインでの議論の適用の余地は小さいと思われます。



一般的なパブリックチェーンの場合、1と2を満たしていることは多いといえます。しかし、3については、異なる場合があるようです。
ビットコインの場合、誰でもコンピュータにビットコインのソフトをインストールしてインターネットに繋げば、ビットコインのネットワークを構成するノードの一部になり、マイニング競争に加わるとともに、ビットコインの堅牢性保持に加わることになります。
しかし、現状、多くのチェーンはビットコインのプルーフ・オブ・ワークから、より環境にやさしいと言われるプルーフ・オブ・ステークに移行しています。その中で、ソフトをインストールして、インターネットに繋いで、適宜必要な仮想通貨の額をステークすれば、バリデータになれるのであれば2を満たしているといえます。



しかし、おそらく(完全に理解しきれていないので誤りがあるかもしれません)バイナンススマートチェーンでは、このような形ではバリデータになることはできず、バリデータになる人は決まっているようです。そうすると、そのようなチェーンは、誰のものでもない・管理者がいないというような状況ではなく、バイナンスの管理下にあるとみる余地がでてきます。



なお、ここでの話は、主に特定のブロックチェーンと密接に結びついたネイティブトークン(そのブロックチェーン利用に必要な仮想通貨)に関するものです。特定のブロックチェーンに管理者が存在すれば、そのブロックチェーンのネイティブトークンはその管理者に対する債権と考える余地があるということになります。なお、ネイティブトークンを利用料(ガス代)として払うということは、2があって問題になることです。誰でも使うことができるからには、利用料を徴収する仕組みが必要です。プライベートチェーンであれば、その企業が全体的なサービス提供の収支の中で考えればよいので、ガス代の存在は必須ではありません。



準管理主体の存在



上記のバイナンススマートチェーンでのバイナンスの存在ほどではないにしろ、イーサリアムにはイーサリアム財団、ソラナにはソラナ財団、ポルカドットにはWeb3 Foundationといったような取り仕切りをしている団体が存在しています。これらの存在も、管理者不在かどうかを議論する際にグレーな存在といえます。



ガバナンストークン、ユーティリティートークン、地域通貨



ビットコインにおいては、ビットコインのブロックチェーン上で動くのはビットコインという通貨だけ(厳密には様々な工夫はなされていたようだが)でした。つまり、ブロックチェーンと仮想通貨が一体化していたといます。ビットコンの私法的性質に関する議論は、このような前提でなされています。
しかし、イーサリアム、ソラナ、バイナンススマートチェーン等においては、そのブロックチェーン上で利用できる別の仮想通貨を新たに作ることができます。この場合は、ブロックチェーンに管理者・提供者が存在しなくても、仮想通貨には管理者や提供者が存在するということがありえます。



ステーブルコイン



いわゆるドル等に連動したステーブルコインは、イーサリアム上のERC20トーク等として発行され、発行体組織が存在することが多いです。USDTであればTether社、USDCはCenterというコンソーシアムのようです。
このような場合、ステーブルコインを発行体に対する債権と考えることができるのか等の再検討の余地はあるといえます。もっとも、現状のステーブルコインについては、何らかの債権だとしても準拠法が日本法ということはなさそうです。
今後、日本円連動のステーブルコインが日本企業(またコンソーシアム)から発行された場合、そのチェーンがパブリックチェーンだとしても、ビットコインでの法定性質論がそのまま当てはまることはなさそうです。



ガバナンストークン



ユニスワップ(DEX。分散型取引所)におけるUNI等のガバナンストークンは、株式類似の性質もあり、保有者は意思決定の権限、利益配当を受ける権限があることも多いです。このような場合も、ビットコインでの議論がそのまま当てはまるとはいえないだろうと思います。



その他ユーティリティトークン等



ステーブルコインやガバナンストークン以外の地域通貨だったり、ゲーム内通貨だったりも、同様に発行体が存在したり、何らかの権利があったりということが想定され、個別の検討が必要そうです。



議論の実益と検討の枠組み



以上、つらつらと書きました。このようなことを検討する実益は、



  • 仮想通貨が盗まれたとき
  • 差押をするとき
  • 倒産企業が保有していたとき
  • 秘密鍵を紛失したとき
  • 誤送金したとき
  • 相続が発生したとき


等に何らかの、国内司法での枠組みで救済措置を取りうるかということを検討する際に有用となります。



そして、起こった場面(差押の場面なのか、相続の場面なのか)、仮想通貨の性質に応じて、何かとりうる手段はあるのかという検討をすることになろうかと思います。